弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

平成28年司法試験憲法の答案例

なんとなく思い立って、平成28年司法試験憲法の答案を書いてみました。

プライバシーに関して、個人に関する情報をみだりに開示又は公表されない自由(住基ネット判決等)と公権力から情報を取得されない自由(外国人指紋押捺拒否事件、京都府学連事件等)があり、整理が難しい論点でした。

なお、司法試験の憲法の解説としては、以下の書籍が有名です。

 

 

 

【回答例】

第1 設問1

1 性犯罪により懲役の確定裁判を受けた者に対する継続監視に関する法律(以下、「法案」という。)14条及び法案22条は、監視対象者のみだりに位置情報を把握されない自由(憲法13条後段)を侵害し、違憲ではないか。

⑴ 法案の仕組み

 法案14条は、裁判所が被申立人に対する継続監視を行う旨の決定をすることになっており、その場合、監視対象者(法案2条2項)は、国家公安委員会規則に基づき警察本部長等によって継続監視が行われる(法案22条)。

 「継続監視」とは、監視対象者の体内に埋設した位置情報発信装置(以下「GPS」という。)から送信される位置情報を電子計算機を使用して継続的に取得し、これを電子地図の上に表示させて監視対象者の現在地を把握することをいい(法案2条1項)、これによって、監視対象者は、警察本部長等によって、位置情報を継続的に把握されることになる。

 したがって、法案14条、法案22条は、監視対象者のみだりに位置情報を把握されない自由を制約している。

⑵ 保護範囲論

 憲法13条後段は、幸福追求権として国民の私生活上の自由を保障している。みだりに位置情報を把握されない自由は、幸福追求権の一内容として憲法13条後段によって保障される。

⑶ 違憲審査基準

 法案14条及び法案22条の合憲性は、厳格に判断すべきであり、重要な目的のために、必要かつ合理的な手段であり、他に制限的でない方法が採りえないときに限り合憲とすべきである。

 法案14条及び法案22条は、性犯罪の再発の防止が目的である(法案1条参照)。この目的には、将来の被害者の性的自由及び身体の保護と性犯罪者の更生が含まれており、重要な目的である。

 警察本部長等によって、監視対象者の位置情報を継続的に把握するという手段をとったとしても、監視対象者が、性犯罪を行っていることやその準備行為を行なっている疑いがあることを知ることはできないはずであり、警察官が現場に急行することはできないから、性犯罪の再発防止に役立たない。したがって、合理性は認められない。

 監視対象者となった場合は、GPSを外科手術によって体内に埋設することを義務付けられ(法案21条)、GPSを体内に埋設しなかった場合並びにGPSを除去又は破壊することに罰則が付されている(法案31条1号、2号)。たしかに、かかる外的手術を受けたとしても、いかなる健康上・生活上の不利益も生じず、手術痕も外部から認識できない程度に治癒し、継続監視の期間が終了した後に当該装置を取り外す際も同様であるとの医学的見地が得られている。しかし、再犯防止のために、位置情報を把握されない自由だけでなく、身体の侵襲に関する利益をも侵害するのは、過剰な手段であり、これの違反に罰則を科すことも不均衡である。したがって、法案の必要性も認められない。

 法案の作成過程では、取り外すことができない小型のブレスレット型GPSの装着を義務付ける案も検討されたが、社会的差別を引き起こしかねないとの理由で廃案となっているが、足首につけることによって外部からの認識を防ぐことができる。また、罰則ではなく過料を設けることによっても、性犯罪の再犯防止を図ることができる。そのため、他の制限的でない手段が存在する。

⑷ よって、法案14条、法案21条、法案31条1号、2号は違憲である。

 

2 法案23条は、監視対象者の移動の自由(憲法22条1項)を侵害し、違憲ではないか。

⑴ 保護範囲

 憲法22条1項は、「居住、移転」の自由を保障しているところ、その前提として、一時的な移動の自由が保障される。

⑵ 制約

 法案23条により、警察本部長等は、一般的危険区域(法3条)のうち特定の区域を特定危険区域と指定し、当該監視対象者に対し、1年以下の期間を定めて、当該特定危険区域に入ってはならない旨の警告がされる。警告によって、監視対象者は特定危険区域への立ち入りが制約されるから、移動の自由に対する制約が認められる。

⑶ 違憲審査基準の定立

 移動の自由は、22条1項に規定されているが、経済的自由の側面だけではなく、人身の自由としての側面や、移動が個人の人格の発展に関わる精神的自由としての側面を有するから、立法府の裁量に委ねられるべき問題ではない。

 したがって、合憲性は厳格に判断されるべきであり、法案23条の合憲性は、厳格な合理性の基準で判断すべきであり、重要な目的のための必要かつ合理的な手段に限り、合憲となる。

⑷ 違憲審査基準へのあてはめ

 法の目的は、第1と同様に、性犯罪の再発防止にある。

 警告によって、監視対象者が性犯罪を行うことの自粛に資するから、手段の合理性が認められる。

 一般的危険区域の指定の要件は、「性犯罪が発生する危険が一般的に高いと認める地域」(法案3条)となっており、不明確であるから、監視対象者は罰則の適用をおそれて行動の自由を不当に萎縮させ、過剰な規制である。

⑸ よって、法23条は、合憲である。

 

第2 設問2

1 法案14条及び法案22条の保護範囲論について

 公権力による情報の収集に対する私生活上の自由に対する侵害は、判例上、憲法13条の趣旨に反すると述べているにとどまり、人格的生存に不可欠な権利としての保護は与えられていないと反論が想定される(外国人指紋押捺拒否事件、京都府学連事件)。

 継続監視を実施するため、警察署には、管轄地域の地図を表示する大型モニターが導入され、同モニターには、監視対象者の現在地が表示されるとともに、同人の前科情報が表示されることが想定されている。これによって、監視対象者は、位置情報を継続的に把握され、行動パターンから思想信条などの秘匿性の高い情報が読み取られ、私的領域に侵入される可能性を含む(GPS判決)。また、前科情報は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、格別に慎重な取扱いが求められる秘匿性の高い情報である(前科照会事件)にもかかわらず、常に位置情報と結び付けられる状態に置かれる。

 以上のように、法案14条及び法案22条は、位置情報を把握されるだけでなく、秘匿性の高い情報を読み取られ、又は秘匿性の高い情報と結び付けられる可能性を含む仕組みとなっているから、Yの反論は失当であり、みだりに位置情報を把握されない自由は、人格的生存に不可欠な権利として、憲法13条後段によって保障されるべきである。

2 法案23条の違憲審査基準の定立について

 警告がなされる範囲は、一般的危険区域のうちの特定の区域であるから、移動の自由が制限される場所的な範囲は小さい。また、警告の期間は1年以下とされており、期間としては短期間である。したがって、移動の自由に対する制限は小さいとの反論が想定される。

 しかし、一度の警告の期間は1年以下であるが、回数に制限はないから、半永久的に警告をし続けることも可能である。したがって、移動の自由に対する制限は必ずしも小さいとはいえない。

3 法案23条の違憲審査基準へのあてはめについて

 法案24条1項は、禁止命令を定め、禁止命令違反に対しては罰則を科す(法案31条3号)という間接罰の仕組みを採っている。そのため、禁止命令を発してから、上記要件該当性を判断することができるから、要件の不明確性の問題は小さい。したがって、手段の必要性が認められる。

4 よって、法案23条は合憲である。