弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例から行政法を考える事例④ 解答例

第1 設問1

1 本件通知は、取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)にあたるか。

2 「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう[1]

(1)養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設置者は、設備及び運営についての条例の基準を遵守する義務を負っている(老人福祉法(以下「老福法」という。)17条3項)。また、設置者は、老福法11条に基づく委託を受けたときは、正当な理由がない限り、拒んではならないとして、老人を受託することを義務付けられている(老福法20条1項)。そのため、本件募集要項に係る契約の相手方の意思決定の自由を制約している。

 しかし、本件通知は、本件募集要項に定められた、「施設と建物と備品を無償で譲渡し、建物の敷地を当分の間無償で貸与する」という契約の相手方の選定をした旨の事実の通知である。そのため、本件通知は、契約の一段階といえるから、公権力性は認められない[2]

(2)X₁は、本件通知の違法確認訴訟を提起して救済を受ける余地があるから、権利救済の実効性は一定程度確保されている。

3 よって、本件通知に「処分」性は認められない。

第2 設問2①

1 本件条例は、取消訴訟の対象となる「処分」にあたるか。第1の2の基準で判断する。

2 本件条例は、地方自治法244条の2第1項に基づき、立法作用であるY市議会が可決したものであるから、公権力性が認められる。

(1)条例制定行為は、国民の地位を一般的・抽象的に変動させるから、直接性が認められないのではないか。

 ア X₃は、介護保険法の下、Y市との間で締結する利用契約に基づき特別養護老人ホームに入所しているから、施設選択権を有している。

 イ X₂は、老福法11条1項1号の措置に基づき養護老人ホームに入所しているから、施設選択権は認められない。

 しかし、養護老人ホームは、入所者が自立した日常生活を営み、社会活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設である(老福法20条の4)から、特別な需要に基づき特別なサービスを受けられる施設といえる。そのため、養護老人ホームの入所者は、継続的に特別なサービスを受ける期待権を有する。

 ウ 本件条例は、A園を廃止するという効果を発生させる。そして、養護老人ホーム及び特別養護老人ホームに入所中の者という特定の者に対し、施設選択権あるいは継続的に特別なサービスを受ける期待権を侵害するから、直接性が認められる。

(2)取消訴訟の認容判決は、第三者効が認められる(行訴法32条)から、これによって、入所者との間に判決効を及ぼすことが合理的である。

3 よって、本件条例には「処分」性が認められる。

第3 設問2②

1 X₂及びX₃は、本件条例は、人格権を侵害し違法であると主張する。

(1)本件条例に係るA園の廃止は、地方自治法244条の2第1項により、条例事項とされており、「公の施設」(244条1項)の必要性の判断が求められるから、Y市議会には立法裁量が認められる。

 そこで、必要性・合理性が認められないときに限り、裁量権を逸脱濫用し、違法となる。

(2)養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの廃止にあたっては、市町村は、都道府県知事に対して届出をすることが義務付けられている(老福法16条2項)。その内容として、「現に入所している者に対する措置」が求められる。そのため、現に入所している者の利益が保護されている。また、設問2①で述べた通り、入所者には、継続的に特別なサービスを受ける期待権がある。そうすると、Y市議会はこれに配慮して条例の廃止を検討すべきである。

 Y市は、A園の入所者とその家族に対して説明会を実施し、民間移管の条件として、引き続き入所を希望する利用者を入所させること、受託事業者の職員に対し平成26年1月から施設での引継ぎと研修に当たらせること、移管後一定期間、Y市の介護職員を派遣することなどを提示する旨を説明した。しかし、一部の入所者からは、介護職員の交代により養護の水準・内容が低下することや、運営方針の転換や経営事情の悪化を理由に退所・転所を迫られることに対する強い危惧が表明された。それにもかかわらず、本件条例を制定することは、入所者の利益を配慮したとはいえない。

(3)よって、裁量権を逸脱濫用し、違法である。

2 X₂及びX₃は、説明会において意見を表明する機会が十分に与えられなかったことが、老福法12条に違反すると主張する。

(1)手続上の違法があったとしても、実体法上適法であるときは、処分を取り消したとしても同じ内容の処分が繰り返される可能性がある。そのため、手続の違反が常に取消事由とはなるわけではない。もっとも、適正な手続によって処分を受ける権利が害されるから、手続遵守が求められる。そこで、手続違反が重大である場合は取消事由となる。

 老福法12条の趣旨は、行政庁の恣意を抑制し、処分の適法性・妥当性を担保して国民の権利利益の保護を図ることにあると考えられる。

 意見表明の機会が不十分であると、行政庁の恣意を抑制できず、国民の権利利益の保護を図ることができないから、重大な違法といえる。

(2)よって、取消事由となる。

 

[1] 大田区ごみ焼却場設置事件(最判昭和39・10・29民集18巻8号1809頁)。

[2] 最判平成23・6・14裁時1533号24頁。