事例から行政法を考える事例⑤解答例
第1 設問1
1 本件給付金等のそれぞれに係る支給行為に「処分」性(行訴法3条2項)は認められるか。
(1)「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう[1]。
(2)地方公務員等共済組合法(以下「法」という。)42条1項は、短期給付を受ける権利を定めているところ、本件給付金は、法53条の「短期給付」と法54条の附加給付として「これに準ずる短期給付」であるから、法42条1項の対象となる。
法42条1項は、短期給付を受ける権利を請求に基づいて組合が決定するものであるから、「申請」(行手法2項3号)に対する処分といえる。また、法117条1項は、短期給付に関する決定に関し不服がある者に対し、審査請求を認めているから、法42条1項に基づく決定が「処分」であることを前提とした仕組みとなっている。
したがって、組合が優越的地位に基づいて一方的に行う行為であるから、公権力性が認められる。
法42条1項に基づく決定がされることにより、短期給付を受けることができるから、法効果性が認められる。
よって、本件給付金の支給行為には「処分」性が認められる。
(3)これに対して、本件定款に基づく一部負担金払戻金、及び本件要綱に基づく入院見舞金は、法42条1項の対象とならない。また、法令に根拠を持たないから、処分性は認められない。
2 返還請求書交付行為に「処分」性は認められるか。上記1と同様の基準で判断する。
返還請求書交付行為は、「組合」が、法42条1項に基づき、一方的にする行為であり、本件給付金等を有することができなくなる地位に立たされるから、処分性が認められる。
第2 設問2
1 共済組合は、法に基づいて設置され、常時勤務することを要する地方公務員を組合員として組織される団体で、組合員資格の得喪は、一定の事実に基づいて自動的かつ強制的に行われている。そのため、共済組合の性質は、公共組合である。
2 本件では、X理事長であるPが、書面を交付しているが、返還請求書交付行為は、法42条1項に基づき、「組合」が行政庁として行う処分である。「組合」は、法人格を有し、国又は公共団体に所属していないから、組合が被告となる(行訴法11条2項)。
第3 設問3
1 Xは、Yに対し、不当利得返還請求(民法703条)をしている。
2 返還請求書交付行為は、法42条1項に基づき、法42条2項に基づく本件給付金等の効果を失わせるものである。
法62条2項は、地方公務員災害補償法の規定による通勤による災害に係る療養補償が行われるときは、療養の給付等の支給は行わないことを定めている。
Yは、平成28年5月、本件傷病に関し、通勤災害との認定を受け、地方公務員災害補償法所定の療養補償としての金員の支給を受けたため、法62条2項に該当する。地方公務員災害補償法に基づく支給は、通勤災害の認定に時間を要するため、法42条2項の要件事実をみたさなくなったことは、後発的瑕疵である。
したがって、返還請求書交付行為は、講学上の撤回にあたる。
授益的処分の撤回は、処分の成立時に瑕疵がないことを前提とするから、法的安定性を害する。
そこで、行政処分の法的性質、撤回すべき公益上の必要性と撤回を受ける者が被る不利益の較量、撤回の原因となった事実などを総合し、撤回すべきといえるときに限り、行政庁はその権限において撤回することができる[2]。
法の趣旨は、災害に関して適切な給付を行うことにある(法1条)。そのため、62条2項は、重複支給の場合には義務的に撤回を求めていると解される。これに対して、給付を受ける者は、法に基づく給付と地方公務員災害補償法に基づく給付の二重の利得を得ることになるが、一方の給付をすることによって、救済は十分に図ることができる。したがって、組合は、本件給付金等の支給を撤回すべきである。
以上のことから、42条2項に基づく撤回は、遡及的に無効となるべきである。
3 よって、Xの請求は認められる。