弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例で考える会社法事例② 解答例

 

第1 訴訟要件

 本件株式発行の効力発生日は、6月27日である(209条1項1号)から、10月1日の時点では、既に本件株式発行の効力が生じており、「6か月以内」である。

 そこで、甲会社の株式20株を有する「株主」であるDは、甲会社(834条2号)に対し、本件新株発行の無効の訴えを提起している(828条1項2号)。

第2 無効原因

1 甲会社の定款には、株式の譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定めは存在しない。そのため、甲会社は、公開会社(2条5号)である。

 本件株式発行は、Bのみにされているから、特定の者に対して募集株式の発行等を行う第三者割当てにあたる。

 本件株式発行は、「特に有利な金額」(199条3項)といえるか。

 非上場会社の場合は、どのような場合にどのような株式評価方法を用いるかについて明確な基準が確立されていないから、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額が決定されていたといえるときは、「株式を引き受ける者に特に有利な金額」(199条3項)にあたらない。

 本件株式発行の払込金額は、税理士Fの意見を求めて決定したものである。Fは、甲会社の資産の大部分を占める醸造所用地の評価を会社設立当初の評価額(帳簿)である1000万円で評価し、一株当たりの純資産額を払込金額としたものである。しかし、実際には地価上昇により現在では、同醸造所用地は仮に売却するとすれば少なくとも1億円は下らないものであった。

 たしかに、帳簿という客観的資料に基づく。しかし、醸造所用地は、時価で評価することにより、膨大な含み益を有する資産といえる。そのため、含み益を考慮しない点で、一応合理的とはいえない。したがって、「特に有利な金額」にあたる。

 そうすると、募集事項の決定は、株主総会決議によって行われる(201条1項、199条2項、309条2項5号)ところ、本件では、株主総会決議は行われていない。

 「特に有利な金額」であるにもかかわらず、株主総会決議を欠くことは、無効原因となるか。無効原因は法定されていないため、問題となる。

 会社法は、いわゆる授権資本制を採用し、新株発行の権限を取締役会に委ねているから、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われる。また、新株発行の効力が生じた後であるから取引の安全を図る必要がある。

 そこで、会社を代表する権限のある取締役が新株発行を行ったときは、有効な株主総会決議がなくても有効である。

 6月1日、Bは、Cとともに入院中のAを見舞い、近いうちに資金調達のための取締役会を開催することを相談したところ、Aは、一切任せる旨を返答した。そのため、適法に招集通知がされたといえ、取締役会決議は有効とも思われる。しかし、Aは、Bに対して虚構の説明をしていることや、見舞いは、取締役会が行われた6月4日の1週間前とはいえない6月1日に行われていることから、取締役会決議は有効とはいえない。そのため、Bを代表取締役に選定する取締役会決議は、効力を生じない。

 そうすると、代表取締役でない者が本件新株発行を行ったことになるから、無効原因となる。

2 甲会社は、払込期日の2週間前である6月1日に、本件新株発行について官報による公告を行ったから、募集事項の通知を行ったといえる(201条3項、4項)。

3 本件新株発行は、「著しく不公正な方法」による発行(210条2号)にあたることが考えられる。

 取締役の選任・解任は、株主総会の権限事項である(329条1項、339条1項)から、選ばれる側の立場にある取締役が自分を選ぶ立場にある株主の構成を変更することは権限分配の秩序に反する。

 そこで、「著しく不公正な方法」による発行とは、不当な目的を達成する手段として新株の発行が利用される場合をいう。取締役会が募集株式の発行を決定した目的のうち、支配権維持目的が資金調達の必要性などの他の正当な利益に優越し、主要目的と認められる場合に「著しく不公正な方法」による発行にあたる(主要目的ルール)。

 Aの療養は長期にわたっており、Bは、Dが甲会社の経営に干渉することを懸念している。Dは、実際、Aの代理人と称してたびたび社屋を訪れるようになっており、その際には、自身も甲会社の経営に関与する意欲があることをほのめかしている。そのため、B・CとDの間で支配権争いが存在しているといえる。

 Cは、約8%にあたる10株を保有しているが、本件新株発行がされることにより、100株となり、約47%の株式を有することになる。そのため、本件新株発行による支配権争いへの影響は大きい。

 したがって、本件新株発行は「著しく不公正な方法」による発行にあたる。

 「著しく不公正な方法」による発行は、無効原因となるか。無効原因は法定されていないため問題となる。

 会社法は、いわゆる授権資本制を採用し、新株発行の権限を取締役会に委ねているから、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われる。また、新株発行の効力が生じた後であるから、取引の安全を図る必要があり、不公正発行の場合は広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるから画一的に判断する必要がある。

 したがって、「著しく不公正な方法」による発行は有効である。

第3 結論

 よって、Dの提起した新株発行無効の訴えは認められる。