弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例から行政法を考える事例⑥ 解答例

第1 設問1

1 Xは、Y市に対し(行訴法11条1項1号)、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)7条1項、2項に基づく収集運搬業の許可の更新のうち、営業地区をα地区に限定した部分の取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することが考えられる。

(1)営業地区をα地区に限定した部分は、廃掃法7条1項、2項に基づく許可の更新とは別に、廃掃法7条11項前段に基づき営業地区を限定する義務を負わせるから、附款のうちの負担にあたる。

 附款がなければ当該行政処分自体がなされなかったと客観的に認められる場合には、当該処分全体が違法性を帯びているから、附款だけの取消訴訟は提起できない。

 そこで、附款の取消訴訟は、附款がなくても公益上の障害が生じないといえるときに限り認められる。

 平成18年3月にXの創業者であるCが死亡した後、DとEとの間で、Xの経営権をめぐる紛争が生じ、α地区およびβ地区内では、D派とE派の従業員らが入り乱れて業務を行う状態に陥った。そして、平成27年9月にEがXを解雇され、Eに追随した従業員らがXを退職するに至り、平成28年度および平成29年度のし尿・浄化槽汚泥清掃業について、Xは許可の更新を、Eは新規の許可をY市長にそれぞれ申請するところとなった。そのため、α地区およびβ地区の許可の更新を認めると、XとE派の従業員らが入り乱れて業務を行う状態が続くし、人数的に生活環境の保全及び公衆衛生の向上(廃掃法1条参照)に資する収集運搬が期待できない。そのため、α地区に限定しなければ、公益上の障害が生じ得るから、廃掃法7条5項1号の許可基準に反し、附款がなければ許可の更新自体がされなかったといえる。

(2)したがって、附款だけの取消訴訟を提起することはできない。

2 そこで、Xは、Y市に対し(行訴法11条1項1号)、廃掃法7条1項、2項に基づく許可の更新全体の取消訴訟(行訴法3条2項)と申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)を併合提起(行訴法37条の3第3項2号)して争うべきである。

第2 設問2

1 取消訴訟原告適格は、「法律上の利益を有する者」に認められる(行訴法9条1項)。

2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら公益に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき趣旨を含むと解される場合には、「法律上保護された利益」にあたり、原告適格を有する。

 Xは、「処分の相手方以外の者」であるから、「法律上保護された利益」を有するかどうかは、9条2項によって判断する[1]

 Xは、営業上の利益を主張することが考えられる。この利益は、「法律上保護された利益」といえるか。

(1)一般廃棄物収集運搬業の許可

 ア Eに対する一般廃棄物収集運搬業の許可処分の根拠は、廃掃法7条1項である。同条3項1号は、許可要件として、「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難である」と定めている。これは、生活環境の保全や公衆衛生の向上を図ることを究極目的のために(廃掃法1条)一般廃棄物の適正な処理は市町村の責務である(廃掃法4条1項)としていることに基づく。そのため、一般廃棄物収集運搬業は、本来的な自由とはいえない。

 そして、「申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合する」こと(廃掃法7条3項2号)を許可要件としており、一般廃棄物処理計画(廃掃法6条1項)には、「一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み」(2項1号)や「実施する者に関する基本的事項」(4号)を定めるものとしている。また、「申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合する」ことを許可要件とし(廃掃法7条3項3号)、環境省令では経理的基礎が求められている。これは、市町村長が許可の判断をする際に需給の適正化を考慮することが求められていることに基づく。

 さらに、事業停止命令(廃掃法7条の3)、許可取消し(7条の4)、廃業の届出(7条の2第3項)が規定されており、許可が付与された後も、需給適正化が図られる仕組みが採られている。

 以上のことから、廃掃法は、収集運搬業許可の際に、需給の適正化を考慮することにより、競争業者の営業上の利益を保護する趣旨を含むといえる。

 イ 収集運搬業は、公共性の高い事業であるところ、仮に、収集運搬業許可が違法になされるとすれば、過当競争が生じ、適正な処理が行われなくなり、生活環境や公衆衛生の悪化が起こり得る。そし、それが継続すれば、地域の住民の健康被害を生じかねない。そのため、このような住民の生活環境や健康の利益を保護するための営業上の利益は公益に吸収解消できる利益ではない。

 ウ そこで、市町村長から既に廃掃法7条に基づく収集運搬業許可を受けている者は、「法律上保護された利益」を有し、原告適格が認められる。

 Xは、一般廃棄物収集運搬業許可をα地区に限定して更新されているから、「法律上保護された利益」を有する者であり、原告適格が認められる。

(2)浄化槽系創業の許可

 ア Eに対する浄化槽清掃業の許可処分の根拠は、浄化槽法35条1項であるが、浄化槽法の仕組みからは営業利益を保護する趣旨を読み取ることはできない。営業利益は社会相互関連性が大きいから、公益に吸収される。

 イ もっとも、浄化槽の清掃により生ずる汚泥等の収集、運搬につき、これをするために必要な一般廃棄物処理業の許可を有しない者は、浄化槽法36条2号ホ所定の事由があるとした判例がある。そのため、廃掃法7条1項に基づく収集運搬業許可は、浄化槽清掃業の許可処分の前提となっているといえるから、廃掃法が「関係法令」(行訴法9条2項)。

 ウ そうすると、(1)で述べた通り、Xには原告適格が認められる。

3 よって、Xは、Eに対する一般廃棄物収集運搬業の許可および浄化槽清掃業の許可の取消訴訟を提起する原告適格を有する。

 

[1] 小田急訴訟(最大判平成17・12・7民集59巻10号2645頁、CB12-10)。

事例から行政法を考える事例⑤解答例

 

第1 設問1

1 本件給付金等のそれぞれに係る支給行為に「処分」性(行訴法3条2項)は認められるか。

(1)「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう[1]

(2)地方公務員等共済組合法(以下「法」という。)42条1項は、短期給付を受ける権利を定めているところ、本件給付金は、法53条の「短期給付」と法54条の附加給付として「これに準ずる短期給付」であるから、法42条1項の対象となる。

 法42条1項は、短期給付を受ける権利を請求に基づいて組合が決定するものであるから、「申請」(行手法2項3号)に対する処分といえる。また、法117条1項は、短期給付に関する決定に関し不服がある者に対し、審査請求を認めているから、法42条1項に基づく決定が「処分」であることを前提とした仕組みとなっている。

 したがって、組合が優越的地位に基づいて一方的に行う行為であるから、公権力性が認められる。

 法42条1項に基づく決定がされることにより、短期給付を受けることができるから、法効果性が認められる。

 よって、本件給付金の支給行為には「処分」性が認められる。

(3)これに対して、本件定款に基づく一部負担金払戻金、及び本件要綱に基づく入院見舞金は、法42条1項の対象とならない。また、法令に根拠を持たないから、処分性は認められない。

2 返還請求書交付行為に「処分」性は認められるか。上記1と同様の基準で判断する。

 返還請求書交付行為は、「組合」が、法42条1項に基づき、一方的にする行為であり、本件給付金等を有することができなくなる地位に立たされるから、処分性が認められる。

第2 設問2

1 共済組合は、法に基づいて設置され、常時勤務することを要する地方公務員を組合員として組織される団体で、組合員資格の得喪は、一定の事実に基づいて自動的かつ強制的に行われている。そのため、共済組合の性質は、公共組合である。

2 本件では、X理事長であるPが、書面を交付しているが、返還請求書交付行為は、法42条1項に基づき、「組合」が行政庁として行う処分である。「組合」は、法人格を有し、国又は公共団体に所属していないから、組合が被告となる(行訴法11条2項)。

第3 設問3

1 Xは、Yに対し、不当利得返還請求(民法703条)をしている。

2 返還請求書交付行為は、法42条1項に基づき、法42条2項に基づく本件給付金等の効果を失わせるものである。

 法62条2項は、地方公務員災害補償法の規定による通勤による災害に係る療養補償が行われるときは、療養の給付等の支給は行わないことを定めている。

 Yは、平成28年5月、本件傷病に関し、通勤災害との認定を受け、地方公務員災害補償法所定の療養補償としての金員の支給を受けたため、法62条2項に該当する。地方公務員災害補償法に基づく支給は、通勤災害の認定に時間を要するため、法42条2項の要件事実をみたさなくなったことは、後発的瑕疵である。

 したがって、返還請求書交付行為は、講学上の撤回にあたる。

 授益的処分の撤回は、処分の成立時に瑕疵がないことを前提とするから、法的安定性を害する。

 そこで、行政処分の法的性質、撤回すべき公益上の必要性と撤回を受ける者が被る不利益の較量、撤回の原因となった事実などを総合し、撤回すべきといえるときに限り、行政庁はその権限において撤回することができる[2]

 法の趣旨は、災害に関して適切な給付を行うことにある(法1条)。そのため、62条2項は、重複支給の場合には義務的に撤回を求めていると解される。これに対して、給付を受ける者は、法に基づく給付と地方公務員災害補償法に基づく給付の二重の利得を得ることになるが、一方の給付をすることによって、救済は十分に図ることができる。したがって、組合は、本件給付金等の支給を撤回すべきである。

 以上のことから、42条2項に基づく撤回は、遡及的に無効となるべきである。

3 よって、Xの請求は認められる。

 

 

[1] 大田区ごみ焼却場設置事件(最判昭和39・10・29民集18巻8号1809頁、CB11-2)。

[2] 菊田医師事件(優生保護医指定撤回事件、最判昭和63・6・17判時1289号39頁、CB2-4)。

事例から行政法を考える事例④ 解答例

第1 設問1

1 本件通知は、取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)にあたるか。

2 「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう[1]

(1)養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設置者は、設備及び運営についての条例の基準を遵守する義務を負っている(老人福祉法(以下「老福法」という。)17条3項)。また、設置者は、老福法11条に基づく委託を受けたときは、正当な理由がない限り、拒んではならないとして、老人を受託することを義務付けられている(老福法20条1項)。そのため、本件募集要項に係る契約の相手方の意思決定の自由を制約している。

 しかし、本件通知は、本件募集要項に定められた、「施設と建物と備品を無償で譲渡し、建物の敷地を当分の間無償で貸与する」という契約の相手方の選定をした旨の事実の通知である。そのため、本件通知は、契約の一段階といえるから、公権力性は認められない[2]

(2)X₁は、本件通知の違法確認訴訟を提起して救済を受ける余地があるから、権利救済の実効性は一定程度確保されている。

3 よって、本件通知に「処分」性は認められない。

第2 設問2①

1 本件条例は、取消訴訟の対象となる「処分」にあたるか。第1の2の基準で判断する。

2 本件条例は、地方自治法244条の2第1項に基づき、立法作用であるY市議会が可決したものであるから、公権力性が認められる。

(1)条例制定行為は、国民の地位を一般的・抽象的に変動させるから、直接性が認められないのではないか。

 ア X₃は、介護保険法の下、Y市との間で締結する利用契約に基づき特別養護老人ホームに入所しているから、施設選択権を有している。

 イ X₂は、老福法11条1項1号の措置に基づき養護老人ホームに入所しているから、施設選択権は認められない。

 しかし、養護老人ホームは、入所者が自立した日常生活を営み、社会活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行うことを目的とする施設である(老福法20条の4)から、特別な需要に基づき特別なサービスを受けられる施設といえる。そのため、養護老人ホームの入所者は、継続的に特別なサービスを受ける期待権を有する。

 ウ 本件条例は、A園を廃止するという効果を発生させる。そして、養護老人ホーム及び特別養護老人ホームに入所中の者という特定の者に対し、施設選択権あるいは継続的に特別なサービスを受ける期待権を侵害するから、直接性が認められる。

(2)取消訴訟の認容判決は、第三者効が認められる(行訴法32条)から、これによって、入所者との間に判決効を及ぼすことが合理的である。

3 よって、本件条例には「処分」性が認められる。

第3 設問2②

1 X₂及びX₃は、本件条例は、人格権を侵害し違法であると主張する。

(1)本件条例に係るA園の廃止は、地方自治法244条の2第1項により、条例事項とされており、「公の施設」(244条1項)の必要性の判断が求められるから、Y市議会には立法裁量が認められる。

 そこで、必要性・合理性が認められないときに限り、裁量権を逸脱濫用し、違法となる。

(2)養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの廃止にあたっては、市町村は、都道府県知事に対して届出をすることが義務付けられている(老福法16条2項)。その内容として、「現に入所している者に対する措置」が求められる。そのため、現に入所している者の利益が保護されている。また、設問2①で述べた通り、入所者には、継続的に特別なサービスを受ける期待権がある。そうすると、Y市議会はこれに配慮して条例の廃止を検討すべきである。

 Y市は、A園の入所者とその家族に対して説明会を実施し、民間移管の条件として、引き続き入所を希望する利用者を入所させること、受託事業者の職員に対し平成26年1月から施設での引継ぎと研修に当たらせること、移管後一定期間、Y市の介護職員を派遣することなどを提示する旨を説明した。しかし、一部の入所者からは、介護職員の交代により養護の水準・内容が低下することや、運営方針の転換や経営事情の悪化を理由に退所・転所を迫られることに対する強い危惧が表明された。それにもかかわらず、本件条例を制定することは、入所者の利益を配慮したとはいえない。

(3)よって、裁量権を逸脱濫用し、違法である。

2 X₂及びX₃は、説明会において意見を表明する機会が十分に与えられなかったことが、老福法12条に違反すると主張する。

(1)手続上の違法があったとしても、実体法上適法であるときは、処分を取り消したとしても同じ内容の処分が繰り返される可能性がある。そのため、手続の違反が常に取消事由とはなるわけではない。もっとも、適正な手続によって処分を受ける権利が害されるから、手続遵守が求められる。そこで、手続違反が重大である場合は取消事由となる。

 老福法12条の趣旨は、行政庁の恣意を抑制し、処分の適法性・妥当性を担保して国民の権利利益の保護を図ることにあると考えられる。

 意見表明の機会が不十分であると、行政庁の恣意を抑制できず、国民の権利利益の保護を図ることができないから、重大な違法といえる。

(2)よって、取消事由となる。

 

[1] 大田区ごみ焼却場設置事件(最判昭和39・10・29民集18巻8号1809頁)。

[2] 最判平成23・6・14裁時1533号24頁。

事例から行政法を考える事例③ 解答例

 

第1 設問1

1 Y県教育委員会は、地方公務員法(以下「法」という。)29条1項1号、3号に基づきXを懲戒免職処分としている。

2 法29条1項1号は、「この法律に違反した場合」を定めており、本件では、法33条違反が考えられるところ、法33条は、「その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為」を禁止するという抽象的な文言を定めている。法29条1項3号は、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」という抽象的な文言を定めている。そして、法29条1項柱書は、懲戒処分として「戒告、減給、停職又は免職」の選択肢を示している。

 そのため、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定すべきであるから、Y県教育委員会には、懲戒処分について、要件裁量と効果裁量が認められる[1]

 そこで、重要な事実の基礎を欠くことになる場合、又は、その内容が社会観念に照らし著しく妥当性を欠くことになる場合に限り、裁量権の逸脱濫用として違法となる(行訴法30条)[2]

3 Y県教育委員会は、教職員に対して「『懲戒処分等の指針』の一部改正について」という通達を出している(以下「本件通達」という。)ところ、本件通達の性質は、裁量基準であり、処分基準(行手法12条1項)である。

(1)本件通達は、酒気帯び運転をした職員は原則として免職とすることを定めている。Xは、この規定は、合理性を有しないから、合理性を有しない本件通達に従った懲戒処分は違法であると主張する。

 平成18年8月にH市の職員の飲酒運転によって幼い子供3人が死亡する交通事故が発生したことから、「懲戒処分等の指針」を改正して、飲酒運転を理由とする懲戒処分の内容を厳格化している。もっとも、改正前の第3の4(2)を適用することによっても、人を死亡させた場合に免職とすることはできるから、一律に免職とする本件通達には合理性はない。

(2)本件通達は、「例えば飲酒後相当の時間経過後に運転した場合には3月以上の停職とすること」が記載されている。

 Xは、平成28年1月10日20時00分頃から23時30分頃まで飲酒し、翌11日午前7時すぎに自己が所有する車両を運転している。そのため、飲酒後7時間以上経過しているから、「飲酒後相当の時間経過後に運転した場合」にあたる。しかし、Xは本件通達と異なる免職処分がされている。

 裁量基準は、行政庁の処分の妥当性を確保するためのものだから、処分が裁量基準に従わないとしても、原則として、当不当の問題であって、当然に違法とならない[3]

 もっとも、公表された基準と異なる取扱いをするならば、平等原則や信頼保護の原則の観点から、行政庁として合理的根拠が必要である。そこで、合理的な根拠なく裁量基準と異なる取扱いをすることは裁量権の逸脱濫用として違法である[4]

 ア Xは、道路交通法65条1項に違反した行為を行ったことにより、90日間の免許停止処分(道路交通法103条1項)と罰金30万円の略式命令(道路交通法117条の2の2第3号)を受けている。Y県教育委員会酒気帯び運転の根絶に向けての取組み等を幾度となく行っている状況にあるにもかかわらず、Xが酒気帯び運転を行ったことは、生徒に範を示す立場にある教師としてあるまじき行為であり、教育現場に及ぼす影響は、極めて多く、教育への信頼を著しく失墜させたといえる。したがって、Y側は、裁量基準に従わない合理的根拠があると主張する。

 イ 「懲戒処分等の指針」は、かなり以前から公表しており、本件通達は、教職員に対して出されている。そのため、本件通達に従った処分がされることに対する信頼が生じている。Xは、これまでに懲戒処分を受けたことはないし、不祥事を起こしたこともない。また、Xは、人身事故や物損を起こしたわけでもないから、本件通達に従わない合理的根拠はない。そのため、Y県教育委員会が飲酒運転の根絶に向けて取組みを行っていることのみを本件通達に従わない免職処分をすることの理由とすることは、信頼保護原則に反する。したがって、裁量権の逸脱濫用に当たり、違法である。

第2 設問2

1 取消訴訟における違法性の判断基準時は、処分時である。Xの飲酒量に関する主張が不自然に変化していることは、処分後の事情であるため、違法主張は許されないとの主張が考えられる。

 もっとも、処分時からXの飲酒量に関する主張が不自然に変化していることは、Xが自らの酒気帯び運転を反省していないことの証拠となるため、本件懲戒処分の理由として追加することは、違法性の基準時に照らして妨げられることにはならない。

2 Y側の主張は、処分理由の追加である。取消訴訟の訴訟物は、処分の違法性一般であるから、訴訟物についての攻撃防御を許すことが訴訟経済に適う。

 そこで、処分の同一性が失われない限り、処分理由の追加的・交換的変更は許される。

 法29条1項1号、3号にあたるし、効果裁量を基礎づける理由の追加にすぎないから、処分の同一性は認められる。

 もっとも、行手法14条1項は、不利益処分をする場合に理由の提示を義務付けている。その趣旨は、行政庁の恣意的な判断を抑制することと不風申立ての便宜にある。そのため、理由提示の趣旨を損ない、原告に不利益を与えるときは、信義則上理由の差替えを制限すべきである。

 Yは、Xの酒気帯び運転に替えて別の非違行為を理由とするわけではなく、同一の酒気帯び運転について、反省していないという心理状態の変化を処分の理由として追加している。そのため、行政庁の恣意的な判断のおそれは小さいし、また、法49条1項は、説明書の交付を義務付けているから、この理由に加えて新たな理由を追加しているから、不服申し立ての便宜を害しない。

3 よって、理由の追加は許される。

 

 

[1] 神戸税関事件(最判昭和52・12・20民集31巻7号1101頁)。

[2] 小田急訴訟(最判平成18・11・2民集60巻9号3249頁)。

[3] マクリーン事件最大判昭和53・10・4民集32巻7号1223頁)。

[4] 北海道パチンコ店営業停止命令事件(最判平成27・3・3民集69巻2号143頁)。

事例から行政法を考える事例② 解答例

第1 設問1

 αホールは、O市により設置された公の施設である(地方自治法244条1項)。Rは、指定管理者(244条の2第3項・条例1条の2第1項)として、αホールを管理し、使用許可等の市長の権限を有している。

 そこで、 Xは、O市市長に対し、審査請求をすることができる(地方自治法244条の4第1項)。

第2 設問2

1 Xは、条例2条1項に基づくαホール使用許可処分の仮の義務付けの申立てをすることが考えられる(行訴法37条の5第1項)。

(1)Xは、Rに対し(行訴法11条2項)、申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)と本件処分の取消し訴訟(行訴法3条2項)を併合提起する(行訴法37条の3第3項2号)。

 そうすると、「義務付けの訴えの提起があった」といえる。

(2)「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること」とは、ひとたび違法な処分がなされてしまえば、当該申立人の法的利益が侵害され、その侵害を回復するのに後の金銭賠償によることが不可能であるか、社会通念に照らしてこれのみによることが著しく不相当であることを要する。

 Cは、T国と日本の友好親善等を目的として、日本国内を中心として民族舞踊、声楽等の講演活動を行ってきた団体である。今回も1000~1500人規模で公演を実施する予定であった。そのため、Cの公演は、大規模な集会であり、αホールがしようできないとなれば、Cは、公演の実施は断念せざるを得ないから、Cの集会の自由(憲法21条1項)を制約する。

 集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、さらに、対外的に意見を表明するための有効な手段である。

 また、本案判決を待っていると、公演期日をすぎてしまい、訴えの利益が失われる。したがって、金銭賠償による救済が不可能であるから、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」といえる。

(3)「本案について理由があるとみえる」か。

 本件処分は、条例3条3号に基づいてされた処分であり、上述のとおり、本件処分は、集会の自由(21条1項)を侵害している。

 条例3条3号は、許可要件を定めており、事前規制であるから、明確かつ厳格な要件のもとでのみ許容される。

 そこで、「管理上支障があるとき」とは、「管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合」とすべきである。

 Rは、本件処分の理由として、①公演を実施した場合に、長期間にわたる街宣活動等により、ビルのテナント等に営業的損失を生じさせるおそれがあること、②ホールを利用される他の利用者に多大な迷惑を被らせるだけでなく、市民にも不安感を与えることが考えられることを挙げている。

 ①について、営業的損失は、憲法が保障する営業の自由(憲法22条1項)として保護を受けるべき利益であるが、公演を実施することとの因果関係が不明であるため、保護されるべきではない。昨年秋のK市公演では、会場であるK市民会館周辺の道路で、右翼団体等が街宣車を10台ほど走らせて公演の中止を求める抗議活動を行ったが、O県警察が警戒にあたり、全体としては大きな混乱もなく公演自体は予定通り行うことができ、この時点をピークに抗議活動は落ち着いてきた感がある。また、今回も同様の妨害行為がほぼ確実に予想されることから、実行委員会としても対策を講じるとともに、O東警察署に警備を要請する予定がある。今年2月8日のM県の公演では、M県警察の警備によって、大きな混乱もなく、無事に公演を終了できたことから、適切な対策をとっておけば混乱は回避できそうである。そのため、管理上支障が生ずるとの自体が具体的に明らかに予測されるとはいえない。

 ②については、集会の自由を犠牲にして保護されるべき利益ではない。

 したがって、「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかである」から、本件処分は違法であり、「本案について理由があるとみえる」。

(4)以上のことから、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」(行訴法37条の5第3項)とはいえない。

2 よって、Xは、仮の義務付けの申立てをすべきである。

第3 設問3

1 Xは、誰に損害賠償請求の訴えを提起すべきか。

 指定管理者の指定(条例1条の2)は、公共団体の事務を行わせる趣旨であるから、公共団体が指定を負うべきである。

2 そこで、Xは、O市に対し、国家賠償請求権(国賠法1条1項)の訴えの交換的変更をすべきである(行訴法21条1項)。

事例で考える会社法事例② 解答例

 

第1 訴訟要件

 本件株式発行の効力発生日は、6月27日である(209条1項1号)から、10月1日の時点では、既に本件株式発行の効力が生じており、「6か月以内」である。

 そこで、甲会社の株式20株を有する「株主」であるDは、甲会社(834条2号)に対し、本件新株発行の無効の訴えを提起している(828条1項2号)。

第2 無効原因

1 甲会社の定款には、株式の譲渡による取得について会社の承認を要する旨の定めは存在しない。そのため、甲会社は、公開会社(2条5号)である。

 本件株式発行は、Bのみにされているから、特定の者に対して募集株式の発行等を行う第三者割当てにあたる。

 本件株式発行は、「特に有利な金額」(199条3項)といえるか。

 非上場会社の場合は、どのような場合にどのような株式評価方法を用いるかについて明確な基準が確立されていないから、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額が決定されていたといえるときは、「株式を引き受ける者に特に有利な金額」(199条3項)にあたらない。

 本件株式発行の払込金額は、税理士Fの意見を求めて決定したものである。Fは、甲会社の資産の大部分を占める醸造所用地の評価を会社設立当初の評価額(帳簿)である1000万円で評価し、一株当たりの純資産額を払込金額としたものである。しかし、実際には地価上昇により現在では、同醸造所用地は仮に売却するとすれば少なくとも1億円は下らないものであった。

 たしかに、帳簿という客観的資料に基づく。しかし、醸造所用地は、時価で評価することにより、膨大な含み益を有する資産といえる。そのため、含み益を考慮しない点で、一応合理的とはいえない。したがって、「特に有利な金額」にあたる。

 そうすると、募集事項の決定は、株主総会決議によって行われる(201条1項、199条2項、309条2項5号)ところ、本件では、株主総会決議は行われていない。

 「特に有利な金額」であるにもかかわらず、株主総会決議を欠くことは、無効原因となるか。無効原因は法定されていないため、問題となる。

 会社法は、いわゆる授権資本制を採用し、新株発行の権限を取締役会に委ねているから、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われる。また、新株発行の効力が生じた後であるから取引の安全を図る必要がある。

 そこで、会社を代表する権限のある取締役が新株発行を行ったときは、有効な株主総会決議がなくても有効である。

 6月1日、Bは、Cとともに入院中のAを見舞い、近いうちに資金調達のための取締役会を開催することを相談したところ、Aは、一切任せる旨を返答した。そのため、適法に招集通知がされたといえ、取締役会決議は有効とも思われる。しかし、Aは、Bに対して虚構の説明をしていることや、見舞いは、取締役会が行われた6月4日の1週間前とはいえない6月1日に行われていることから、取締役会決議は有効とはいえない。そのため、Bを代表取締役に選定する取締役会決議は、効力を生じない。

 そうすると、代表取締役でない者が本件新株発行を行ったことになるから、無効原因となる。

2 甲会社は、払込期日の2週間前である6月1日に、本件新株発行について官報による公告を行ったから、募集事項の通知を行ったといえる(201条3項、4項)。

3 本件新株発行は、「著しく不公正な方法」による発行(210条2号)にあたることが考えられる。

 取締役の選任・解任は、株主総会の権限事項である(329条1項、339条1項)から、選ばれる側の立場にある取締役が自分を選ぶ立場にある株主の構成を変更することは権限分配の秩序に反する。

 そこで、「著しく不公正な方法」による発行とは、不当な目的を達成する手段として新株の発行が利用される場合をいう。取締役会が募集株式の発行を決定した目的のうち、支配権維持目的が資金調達の必要性などの他の正当な利益に優越し、主要目的と認められる場合に「著しく不公正な方法」による発行にあたる(主要目的ルール)。

 Aの療養は長期にわたっており、Bは、Dが甲会社の経営に干渉することを懸念している。Dは、実際、Aの代理人と称してたびたび社屋を訪れるようになっており、その際には、自身も甲会社の経営に関与する意欲があることをほのめかしている。そのため、B・CとDの間で支配権争いが存在しているといえる。

 Cは、約8%にあたる10株を保有しているが、本件新株発行がされることにより、100株となり、約47%の株式を有することになる。そのため、本件新株発行による支配権争いへの影響は大きい。

 したがって、本件新株発行は「著しく不公正な方法」による発行にあたる。

 「著しく不公正な方法」による発行は、無効原因となるか。無効原因は法定されていないため問題となる。

 会社法は、いわゆる授権資本制を採用し、新株発行の権限を取締役会に委ねているから、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われる。また、新株発行の効力が生じた後であるから、取引の安全を図る必要があり、不公正発行の場合は広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるから画一的に判断する必要がある。

 したがって、「著しく不公正な方法」による発行は有効である。

第3 結論

 よって、Dの提起した新株発行無効の訴えは認められる。

平成28年司法試験憲法の答案例

なんとなく思い立って、平成28年司法試験憲法の答案を書いてみました。

プライバシーに関して、個人に関する情報をみだりに開示又は公表されない自由(住基ネット判決等)と公権力から情報を取得されない自由(外国人指紋押捺拒否事件、京都府学連事件等)があり、整理が難しい論点でした。

なお、司法試験の憲法の解説としては、以下の書籍が有名です。

 

 

 

【回答例】

第1 設問1

1 性犯罪により懲役の確定裁判を受けた者に対する継続監視に関する法律(以下、「法案」という。)14条及び法案22条は、監視対象者のみだりに位置情報を把握されない自由(憲法13条後段)を侵害し、違憲ではないか。

⑴ 法案の仕組み

 法案14条は、裁判所が被申立人に対する継続監視を行う旨の決定をすることになっており、その場合、監視対象者(法案2条2項)は、国家公安委員会規則に基づき警察本部長等によって継続監視が行われる(法案22条)。

 「継続監視」とは、監視対象者の体内に埋設した位置情報発信装置(以下「GPS」という。)から送信される位置情報を電子計算機を使用して継続的に取得し、これを電子地図の上に表示させて監視対象者の現在地を把握することをいい(法案2条1項)、これによって、監視対象者は、警察本部長等によって、位置情報を継続的に把握されることになる。

 したがって、法案14条、法案22条は、監視対象者のみだりに位置情報を把握されない自由を制約している。

⑵ 保護範囲論

 憲法13条後段は、幸福追求権として国民の私生活上の自由を保障している。みだりに位置情報を把握されない自由は、幸福追求権の一内容として憲法13条後段によって保障される。

⑶ 違憲審査基準

 法案14条及び法案22条の合憲性は、厳格に判断すべきであり、重要な目的のために、必要かつ合理的な手段であり、他に制限的でない方法が採りえないときに限り合憲とすべきである。

 法案14条及び法案22条は、性犯罪の再発の防止が目的である(法案1条参照)。この目的には、将来の被害者の性的自由及び身体の保護と性犯罪者の更生が含まれており、重要な目的である。

 警察本部長等によって、監視対象者の位置情報を継続的に把握するという手段をとったとしても、監視対象者が、性犯罪を行っていることやその準備行為を行なっている疑いがあることを知ることはできないはずであり、警察官が現場に急行することはできないから、性犯罪の再発防止に役立たない。したがって、合理性は認められない。

 監視対象者となった場合は、GPSを外科手術によって体内に埋設することを義務付けられ(法案21条)、GPSを体内に埋設しなかった場合並びにGPSを除去又は破壊することに罰則が付されている(法案31条1号、2号)。たしかに、かかる外的手術を受けたとしても、いかなる健康上・生活上の不利益も生じず、手術痕も外部から認識できない程度に治癒し、継続監視の期間が終了した後に当該装置を取り外す際も同様であるとの医学的見地が得られている。しかし、再犯防止のために、位置情報を把握されない自由だけでなく、身体の侵襲に関する利益をも侵害するのは、過剰な手段であり、これの違反に罰則を科すことも不均衡である。したがって、法案の必要性も認められない。

 法案の作成過程では、取り外すことができない小型のブレスレット型GPSの装着を義務付ける案も検討されたが、社会的差別を引き起こしかねないとの理由で廃案となっているが、足首につけることによって外部からの認識を防ぐことができる。また、罰則ではなく過料を設けることによっても、性犯罪の再犯防止を図ることができる。そのため、他の制限的でない手段が存在する。

⑷ よって、法案14条、法案21条、法案31条1号、2号は違憲である。

 

2 法案23条は、監視対象者の移動の自由(憲法22条1項)を侵害し、違憲ではないか。

⑴ 保護範囲

 憲法22条1項は、「居住、移転」の自由を保障しているところ、その前提として、一時的な移動の自由が保障される。

⑵ 制約

 法案23条により、警察本部長等は、一般的危険区域(法3条)のうち特定の区域を特定危険区域と指定し、当該監視対象者に対し、1年以下の期間を定めて、当該特定危険区域に入ってはならない旨の警告がされる。警告によって、監視対象者は特定危険区域への立ち入りが制約されるから、移動の自由に対する制約が認められる。

⑶ 違憲審査基準の定立

 移動の自由は、22条1項に規定されているが、経済的自由の側面だけではなく、人身の自由としての側面や、移動が個人の人格の発展に関わる精神的自由としての側面を有するから、立法府の裁量に委ねられるべき問題ではない。

 したがって、合憲性は厳格に判断されるべきであり、法案23条の合憲性は、厳格な合理性の基準で判断すべきであり、重要な目的のための必要かつ合理的な手段に限り、合憲となる。

⑷ 違憲審査基準へのあてはめ

 法の目的は、第1と同様に、性犯罪の再発防止にある。

 警告によって、監視対象者が性犯罪を行うことの自粛に資するから、手段の合理性が認められる。

 一般的危険区域の指定の要件は、「性犯罪が発生する危険が一般的に高いと認める地域」(法案3条)となっており、不明確であるから、監視対象者は罰則の適用をおそれて行動の自由を不当に萎縮させ、過剰な規制である。

⑸ よって、法23条は、合憲である。

 

第2 設問2

1 法案14条及び法案22条の保護範囲論について

 公権力による情報の収集に対する私生活上の自由に対する侵害は、判例上、憲法13条の趣旨に反すると述べているにとどまり、人格的生存に不可欠な権利としての保護は与えられていないと反論が想定される(外国人指紋押捺拒否事件、京都府学連事件)。

 継続監視を実施するため、警察署には、管轄地域の地図を表示する大型モニターが導入され、同モニターには、監視対象者の現在地が表示されるとともに、同人の前科情報が表示されることが想定されている。これによって、監視対象者は、位置情報を継続的に把握され、行動パターンから思想信条などの秘匿性の高い情報が読み取られ、私的領域に侵入される可能性を含む(GPS判決)。また、前科情報は、人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、格別に慎重な取扱いが求められる秘匿性の高い情報である(前科照会事件)にもかかわらず、常に位置情報と結び付けられる状態に置かれる。

 以上のように、法案14条及び法案22条は、位置情報を把握されるだけでなく、秘匿性の高い情報を読み取られ、又は秘匿性の高い情報と結び付けられる可能性を含む仕組みとなっているから、Yの反論は失当であり、みだりに位置情報を把握されない自由は、人格的生存に不可欠な権利として、憲法13条後段によって保障されるべきである。

2 法案23条の違憲審査基準の定立について

 警告がなされる範囲は、一般的危険区域のうちの特定の区域であるから、移動の自由が制限される場所的な範囲は小さい。また、警告の期間は1年以下とされており、期間としては短期間である。したがって、移動の自由に対する制限は小さいとの反論が想定される。

 しかし、一度の警告の期間は1年以下であるが、回数に制限はないから、半永久的に警告をし続けることも可能である。したがって、移動の自由に対する制限は必ずしも小さいとはいえない。

3 法案23条の違憲審査基準へのあてはめについて

 法案24条1項は、禁止命令を定め、禁止命令違反に対しては罰則を科す(法案31条3号)という間接罰の仕組みを採っている。そのため、禁止命令を発してから、上記要件該当性を判断することができるから、要件の不明確性の問題は小さい。したがって、手段の必要性が認められる。

4 よって、法案23条は合憲である。