弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例から行政法を考える事例② 解答例

第1 設問1

 αホールは、O市により設置された公の施設である(地方自治法244条1項)。Rは、指定管理者(244条の2第3項・条例1条の2第1項)として、αホールを管理し、使用許可等の市長の権限を有している。

 そこで、 Xは、O市市長に対し、審査請求をすることができる(地方自治法244条の4第1項)。

第2 設問2

1 Xは、条例2条1項に基づくαホール使用許可処分の仮の義務付けの申立てをすることが考えられる(行訴法37条の5第1項)。

(1)Xは、Rに対し(行訴法11条2項)、申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)と本件処分の取消し訴訟(行訴法3条2項)を併合提起する(行訴法37条の3第3項2号)。

 そうすると、「義務付けの訴えの提起があった」といえる。

(2)「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること」とは、ひとたび違法な処分がなされてしまえば、当該申立人の法的利益が侵害され、その侵害を回復するのに後の金銭賠償によることが不可能であるか、社会通念に照らしてこれのみによることが著しく不相当であることを要する。

 Cは、T国と日本の友好親善等を目的として、日本国内を中心として民族舞踊、声楽等の講演活動を行ってきた団体である。今回も1000~1500人規模で公演を実施する予定であった。そのため、Cの公演は、大規模な集会であり、αホールがしようできないとなれば、Cは、公演の実施は断念せざるを得ないから、Cの集会の自由(憲法21条1項)を制約する。

 集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、さらに、対外的に意見を表明するための有効な手段である。

 また、本案判決を待っていると、公演期日をすぎてしまい、訴えの利益が失われる。したがって、金銭賠償による救済が不可能であるから、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」といえる。

(3)「本案について理由があるとみえる」か。

 本件処分は、条例3条3号に基づいてされた処分であり、上述のとおり、本件処分は、集会の自由(21条1項)を侵害している。

 条例3条3号は、許可要件を定めており、事前規制であるから、明確かつ厳格な要件のもとでのみ許容される。

 そこで、「管理上支障があるとき」とは、「管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合」とすべきである。

 Rは、本件処分の理由として、①公演を実施した場合に、長期間にわたる街宣活動等により、ビルのテナント等に営業的損失を生じさせるおそれがあること、②ホールを利用される他の利用者に多大な迷惑を被らせるだけでなく、市民にも不安感を与えることが考えられることを挙げている。

 ①について、営業的損失は、憲法が保障する営業の自由(憲法22条1項)として保護を受けるべき利益であるが、公演を実施することとの因果関係が不明であるため、保護されるべきではない。昨年秋のK市公演では、会場であるK市民会館周辺の道路で、右翼団体等が街宣車を10台ほど走らせて公演の中止を求める抗議活動を行ったが、O県警察が警戒にあたり、全体としては大きな混乱もなく公演自体は予定通り行うことができ、この時点をピークに抗議活動は落ち着いてきた感がある。また、今回も同様の妨害行為がほぼ確実に予想されることから、実行委員会としても対策を講じるとともに、O東警察署に警備を要請する予定がある。今年2月8日のM県の公演では、M県警察の警備によって、大きな混乱もなく、無事に公演を終了できたことから、適切な対策をとっておけば混乱は回避できそうである。そのため、管理上支障が生ずるとの自体が具体的に明らかに予測されるとはいえない。

 ②については、集会の自由を犠牲にして保護されるべき利益ではない。

 したがって、「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかである」から、本件処分は違法であり、「本案について理由があるとみえる」。

(4)以上のことから、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」(行訴法37条の5第3項)とはいえない。

2 よって、Xは、仮の義務付けの申立てをすべきである。

第3 設問3

1 Xは、誰に損害賠償請求の訴えを提起すべきか。

 指定管理者の指定(条例1条の2)は、公共団体の事務を行わせる趣旨であるから、公共団体が指定を負うべきである。

2 そこで、Xは、O市に対し、国家賠償請求権(国賠法1条1項)の訴えの交換的変更をすべきである(行訴法21条1項)。