弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例から行政法を考える事例⑥ 解答例

第1 設問1

1 Xは、Y市に対し(行訴法11条1項1号)、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)7条1項、2項に基づく収集運搬業の許可の更新のうち、営業地区をα地区に限定した部分の取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することが考えられる。

(1)営業地区をα地区に限定した部分は、廃掃法7条1項、2項に基づく許可の更新とは別に、廃掃法7条11項前段に基づき営業地区を限定する義務を負わせるから、附款のうちの負担にあたる。

 附款がなければ当該行政処分自体がなされなかったと客観的に認められる場合には、当該処分全体が違法性を帯びているから、附款だけの取消訴訟は提起できない。

 そこで、附款の取消訴訟は、附款がなくても公益上の障害が生じないといえるときに限り認められる。

 平成18年3月にXの創業者であるCが死亡した後、DとEとの間で、Xの経営権をめぐる紛争が生じ、α地区およびβ地区内では、D派とE派の従業員らが入り乱れて業務を行う状態に陥った。そして、平成27年9月にEがXを解雇され、Eに追随した従業員らがXを退職するに至り、平成28年度および平成29年度のし尿・浄化槽汚泥清掃業について、Xは許可の更新を、Eは新規の許可をY市長にそれぞれ申請するところとなった。そのため、α地区およびβ地区の許可の更新を認めると、XとE派の従業員らが入り乱れて業務を行う状態が続くし、人数的に生活環境の保全及び公衆衛生の向上(廃掃法1条参照)に資する収集運搬が期待できない。そのため、α地区に限定しなければ、公益上の障害が生じ得るから、廃掃法7条5項1号の許可基準に反し、附款がなければ許可の更新自体がされなかったといえる。

(2)したがって、附款だけの取消訴訟を提起することはできない。

2 そこで、Xは、Y市に対し(行訴法11条1項1号)、廃掃法7条1項、2項に基づく許可の更新全体の取消訴訟(行訴法3条2項)と申請型義務付け訴訟(行訴法3条6項2号)を併合提起(行訴法37条の3第3項2号)して争うべきである。

第2 設問2

1 取消訴訟原告適格は、「法律上の利益を有する者」に認められる(行訴法9条1項)。

2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら公益に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき趣旨を含むと解される場合には、「法律上保護された利益」にあたり、原告適格を有する。

 Xは、「処分の相手方以外の者」であるから、「法律上保護された利益」を有するかどうかは、9条2項によって判断する[1]

 Xは、営業上の利益を主張することが考えられる。この利益は、「法律上保護された利益」といえるか。

(1)一般廃棄物収集運搬業の許可

 ア Eに対する一般廃棄物収集運搬業の許可処分の根拠は、廃掃法7条1項である。同条3項1号は、許可要件として、「当該市町村による一般廃棄物の収集又は運搬が困難である」と定めている。これは、生活環境の保全や公衆衛生の向上を図ることを究極目的のために(廃掃法1条)一般廃棄物の適正な処理は市町村の責務である(廃掃法4条1項)としていることに基づく。そのため、一般廃棄物収集運搬業は、本来的な自由とはいえない。

 そして、「申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合する」こと(廃掃法7条3項2号)を許可要件としており、一般廃棄物処理計画(廃掃法6条1項)には、「一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み」(2項1号)や「実施する者に関する基本的事項」(4号)を定めるものとしている。また、「申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合する」ことを許可要件とし(廃掃法7条3項3号)、環境省令では経理的基礎が求められている。これは、市町村長が許可の判断をする際に需給の適正化を考慮することが求められていることに基づく。

 さらに、事業停止命令(廃掃法7条の3)、許可取消し(7条の4)、廃業の届出(7条の2第3項)が規定されており、許可が付与された後も、需給適正化が図られる仕組みが採られている。

 以上のことから、廃掃法は、収集運搬業許可の際に、需給の適正化を考慮することにより、競争業者の営業上の利益を保護する趣旨を含むといえる。

 イ 収集運搬業は、公共性の高い事業であるところ、仮に、収集運搬業許可が違法になされるとすれば、過当競争が生じ、適正な処理が行われなくなり、生活環境や公衆衛生の悪化が起こり得る。そし、それが継続すれば、地域の住民の健康被害を生じかねない。そのため、このような住民の生活環境や健康の利益を保護するための営業上の利益は公益に吸収解消できる利益ではない。

 ウ そこで、市町村長から既に廃掃法7条に基づく収集運搬業許可を受けている者は、「法律上保護された利益」を有し、原告適格が認められる。

 Xは、一般廃棄物収集運搬業許可をα地区に限定して更新されているから、「法律上保護された利益」を有する者であり、原告適格が認められる。

(2)浄化槽系創業の許可

 ア Eに対する浄化槽清掃業の許可処分の根拠は、浄化槽法35条1項であるが、浄化槽法の仕組みからは営業利益を保護する趣旨を読み取ることはできない。営業利益は社会相互関連性が大きいから、公益に吸収される。

 イ もっとも、浄化槽の清掃により生ずる汚泥等の収集、運搬につき、これをするために必要な一般廃棄物処理業の許可を有しない者は、浄化槽法36条2号ホ所定の事由があるとした判例がある。そのため、廃掃法7条1項に基づく収集運搬業許可は、浄化槽清掃業の許可処分の前提となっているといえるから、廃掃法が「関係法令」(行訴法9条2項)。

 ウ そうすると、(1)で述べた通り、Xには原告適格が認められる。

3 よって、Xは、Eに対する一般廃棄物収集運搬業の許可および浄化槽清掃業の許可の取消訴訟を提起する原告適格を有する。

 

[1] 小田急訴訟(最大判平成17・12・7民集59巻10号2645頁、CB12-10)。