弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

民事訴訟法の勉強法【司法試験受験生向け】

今回は、私の民事訴訟法の勉強方法について記載します。

民事訴訟法について、私のロースクールの成績は平均以下であり、ロースクール1年目は、焦り・不安を感じていました。

合格者に民事訴訟法の勉強方法を質問したところ、弁論主義、処分権主義、既判力等の基本的な概念を理解することが重要であるとの助言を受けました(上記合格者は全体で120番台の成績で司法試験に合格し、現在裁判官として活躍されています)。

 

まずは、判例百選の解説を読んで、判例がどのような枠組みで判断を行っているのかはもちろんですが、判例の判断枠組みが導かれる理由が丁寧に解説されているため、いわゆる論証パターンを自分で作成するためには最適の教材でした。

 

しかし、司法試験の問題では、限界事例が出されることがほとんどですが、司法試験の問題では、①基本的な概念にあてはめてみるがあてはまらない、②基本的な概念の制度趣旨から判断枠組みを設定する、③判断枠組みに従って事例の判断をする、という順に検討を行いますので、判例百選では、②、③の解説が分かりやすいのですが、①については理解しづらいと思いました。

この悩みを助けてくれたのが、田中豊先生の『論点精解民事訴訟法〔改訂増補版〕』(民事法研究会、2018)でした。

 

私は、いわゆるリーガルクエストを持っていましたが、このような基本書は、弁論主義、処分権主義、既判力について、概念の説明はしてくれていても、どのように検討すればよいのかについては書いてないですよね。

本書では、判例百選にも載っている重要判例について、要件事実を使って解説しています。特に、弁論主義、処分権主義、既判力の解説は非常に分かりやすいと思いました。

訴訟物、請求原因、抗弁等を整理するだけで、原審は、当事者が主張していない事実を認定している、前訴が判断している事項について判断することになる等が一目でわかるようになりました。

司法試験の民事訴訟法は、判例百選に載っていない論点がよく出て、難しいですが、要件事実の整理をすることができれば、上記①の検討は確実にできます。①に配点されている点数を確実にとることができれば、できていない人に比べて簡単に差をつけることができるでしょう。

私は、ロースクールの友達と話すことで、①ができている人がほとんどいないことに気づき、民事訴訟法に関する焦り・不安が激減しました。上記合格者が言っていた基本的な概念を理解するということも理解できたように思います。

 

私は、民事訴訟法については、演習書はやりませんでした。慶應ロー、早稲田ローの入試の過去問を各10年ずつくらいやりましたが、問題が短いですし、基本的な概念を問う問題がほとんどですので、良かったです。

 

令和元年司法試験憲法の解答例

今回は、令和元年司法試験憲法の解答例を記載しました。

令和元年司法試験の憲法は、判例を起点にした判断枠組みを設定することは難しい問題でした。しかし、グーグル決定、在外国民選挙権訴訟判決、北方ジャーナル事件など、憲法の価値を述べている判例を参考に、判断枠組みを設定することは可能です。

判例の読み方を勉強するためには、以下の書籍がおすすめですので、試してみてください。

第1 立法措置①

1 法案6条は、虚偽表現を流布する自由(憲法21条1項)を侵害し違憲ではないか。

(1)「表現」とは、思想や意見を表明することをいう立場がある。これによると、事実の摘示は「表現」として保障されないと主張することが考えられる。

 しかし、表現は、一般に、言論を通じて自己の人格的価値の発展に資する自己実現の価値と言論を通じて民主主義社会の維持発展にかかわる自己統治の価値を有する重要な権利である。思想や意見を含むあらゆる情報を発信・受領するときには、自己実現・自己統治の価値を有するから、「表現」の保障範囲に含めるべきである。

 「虚偽表現」(法案2条1号)とは、虚偽の事実を真実であるものとして摘示する表現をいうところ、虚偽の事実という情報を発信する行為であるから、「表現」にあたる。したがって、虚偽表現を流布する自由は、表現の自由憲法21条1項)として保障される。

(2)法案6条は、「虚偽表現を流布」することを禁止するため、虚偽表現する自由を制約する。

(3)法案6条は、「公共の利害に関する事実」という限定以外には、限定を付さない。法案2条1号は、虚偽表現の定義を置き、「虚偽の事実」を対象としているところ、「虚偽の事実」という要件は、過度広汎であり違憲ではないか。

 法令の文言が不明確であると、表現の自由が不当に制限され、国民が規定の適用をおそれて本来自由に行いうる表現行為をも差し控えるという効果が生じる。また、法案25条は法案6条違反の場合に罰則を科しており、虚偽表現の流布が、犯罪の構成要件となっているから、適用者にとって、特定の行為が犯罪の構成要件に刑罰に当たるかを恣意的に判断ができてしまう。そのため、規定の文言の明確性が求められる。

 これに対して、法令の趣旨目的と規制される自由の重要性から合憲限定解釈できるときは、法令違憲の判断をすべきでないとの反論が想定される。しかし、「虚偽の事実」かどうかは、政治的・学問的に争いがある事実なども含まれてしまうため、対抗言論によって真理に到達することを妨げる。そのため、規制の対象とそうでないものを明確に区別することはできないから、合憲限定解釈できない。

 したがって、法案6条は、違憲である。

(4)仮に、法案6条に文面上の違法がないとしても、虚偽表現を流布する自由は、「公共の福祉」(13条後段)による制約を受ける。

 ア 1で述べた通り、「表現」は、自己実現・自己統治の価値を有するのが一般的である。しかし、虚偽表現の流布は、虚偽の事実を真実であるものとして摘示する表現である(法案2条1号)。そのため、社会的混乱を生じさせる表現であるから、民主主義の発展を妨げ、自己統治の価値が低いとの反論が想定される。

 もっとも、虚偽の事実であるかどうかは、一義的には明らかでなく、自由闊達な言論を通じてその事実が真理に到達する機会を与えるべきであるから、社会的に意義がある。したがって、虚偽表現を流布する自由は、自己統治の価値が高い重要な権利である。

 イ 法案6条は、「公共の利害に関する事実について」の虚偽表現という内容に着目した禁止を求めている。このような表現内容規制は、人格の発展に反するし、思想の自由市場を歪めるおそれが大きい。したがって、重要な権利である虚偽表現を流布する自由に対する強い規制である。

(5)以上より、法案2条1号、6条、25条の合憲性は、厳格に判断すべきであり、やむにやまれぬ利益のための必要不可欠かつ必要最小限の規制に限り合憲となる

 ア 20XX年、我が国において、甲県の化学工場の爆発事故の際に、虚偽のニュースがSNS上で流布され、複数の県において、飲料水を求めてスーパーマーケットその他の店舗に住民が殺到して大きな混乱を招くことになったという事件がある。法案は、この事件を踏まえて、虚偽の表現により社会的混乱が生じることを防止するという目的(法案1条)を置いている。この目的は、一般的な公益であるため、やむにやまれぬ利益とまではいえない。

 イ 法案6条は、虚偽の表現を流布することを一般的に禁止するものである。仮に目的がやむにやまれぬとすれば、これによって、フェイクニュースによって生じる社会的混乱を防止することができるから、手段の合理性が認められる。また、このような規定は、刑法や公職選挙法にはないから、罰則をもって規制する必要性がある。

2 よって、法案6条は、憲法21条1項に反し違憲であるとの意見を述べる。

第2 立法措置②について

1 法案9条は、SNS事業者のSNSを提供する自由(憲法21条1項)を侵害し違憲ではないか。

(1)「表現」とは、思想や意見を含むあらゆる情報を発信・受領することをいう。SNSを提供することは、登録者の情報発信のプラットフォームの作成・運営であるため、SNS事業者が主体的に情報の発信・受領を行うわけではないとの反論が想定される。

 しかし、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たすから、SNSの提供は、民主主義の維持・発展に資する(グーグル決定)。したがって、SNSを提供する自由は、表現の自由憲法21条1項)として保障されるべきである。

(2)法案9条1項は、特定虚偽表現の削除義務を規定しているから、SNS事業者のSNSの提供に国家が介入するものであり、SNSを提供する自由に対する制約が認められる。

(3)もっとも、SNSを提供する自由も絶対無制約ではなく、「公共の福祉」(13条後段)による制約を受ける。

 ア 「特定虚偽表現」は、「選挙の公正が著しく害するおそれがあること」を要件とする(法案9条1項2号)ため、選挙に関する表現を規制することになる。選挙は、議会制民主主義の根幹をなすもの(在外国民選挙権訴訟判決)であり、選挙に関する表現は、人格的価値を発展させ、政治的な意思決定に関与することを可能にするから重要な権利である。

 イ 法案9条1項は、各号のいずれにもあたる表現があることを知ったときに、削除義務を求める規定であるから、内容に着目した規制である。

 これに対しては、「選挙運動の期間中及び選挙の当日」という時に着目した規制であり、他の手段での表現は可能であるから、思想の自由市場思想の自由市場を歪めるおそれは小さいとの主張が考えられる。

 しかし、規制の対象となる「SNS事業者」(法案2条3号)は、利用登録者が200万人を超える。そのため、200万人以上の利用登録者に対する発信を可能にするため、SNSは、重要な権利である特定虚偽表現のための有効な空間として役立つ(大分県屋外広告物条例事件伊藤補足意見、吉祥寺駅構内ビラ配布事件伊藤補足意見)。そうすると、SNSでの特定虚偽表現に勝る有効な表現は考え難いから、削除義務が思想の自由市場を歪めるおそれは大きい。

 したがって、重要な権利であるSNSを提供する自由に対する強度な制約である。

(4)以上より、法案9条1項の合憲性は、厳格に判断すべきであり、やむにやまれぬ利益のための必要不可欠かつ必要最小限の規制に限り合憲となる。

 ア 過去に外国の重要な選挙に際して、意図的なフェイクニュースの作成・配信が選挙結果を左右したという研究や報道がなされており、乙県知事選挙の際に、虚偽のニュースがSNS上で流布され、現職知事である候補者が落選したことから、選挙の公正が害されたのではないかの議論が生じた。これらの事実の真実性は明らかではないが、相当の蓋然性をもって選挙の公正を害したと認められる。そこで、法案は、選挙の公正を確保することを目的としている(法案1条)。選挙の公正を確保することは、憲法上の要請であり、やむにやまれぬ利益といえる(在外国民選挙権訴訟判決)。

 イ 法案9条は、SNS事業者に削除義務を課すから、特定虚偽表現によって、選挙の公正を保護することができる。そのため、必要不可欠な規制といえる。また、「選挙運動の期間中及び選挙の当日」に期間を絞って削除を求めている。これは、選挙期間中に虚偽表現がされた場合は、期間内に言論による回復が困難であることを理由とする(北方ジャーナル事件)。法案9条は特定虚偽表現の削除義務の要件は、虚偽表現であることが「明白」であり、かつ、選挙の公正が「著しく」害されるおそれがあることが「明白」と厳格な要件となっていることから、恣意的な判断になるおそれが小さい。

 また、削除義務に従わない場合は、削除命令があり(法案9条2項)、削除命令に従わない場合は、罰則が科される(法案26条)。選挙の公正を確保することとの均衡からすると、直罰をとらず、間接罰によって、実効性を確保することは必要不可欠な規制といえる。

(5)したがって、必要不可欠かつ必要最小限の規制といえるから、法案9条1項は合憲であるとの意見を述べる。

2 行政手続法を適用除外とする法案20条は、適正手続を保障する憲法31条に反し違憲ではないか。

(1)憲法31条は、「法律の定める手続によらなければ…刑罰を科されない」と規定するのみであるが、それが不適正な内容であれば、実体的権利の保障は図れない。

 そこで、31条によって、適正手続が保障される。

(2)法案20条は、行政手続法を適用除外とするから、適正手続の保障に欠けるとの主張が考えられるが、これに対しては、告知・聴聞の手続までは不要であり、31条に反しないとの反論が想定される。

(3)行政手続であることのみを理由に憲法31条の適用を排除すべきではない。もっとも、行政手続は、刑事手続と性質に差異があり、行政目的に応じて多種多様である。

 そこで、①手続の構造等を踏まえ、②処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して、事前手続を排除することが不合理であるときは違憲となる(川崎民商事件、成田新法事件)。

 法案9条2項に基づく削除命令は、両議院の関与の下に成る、委員会(法案15条1項)がつかさどる(法案16条3号)から、選挙の専門家によって、手続保障は存在する。法案26条は、削除命令違反の罰則を定めているが、削除命令を受け、従わなければ罰則を受けることはないという段階的な規制をとり、SNS事業者にとっては、削除命令を受けた時点で、法案9条に反することを理解でき、罰則を回避することができる。

 法案9条は特定虚偽表現の削除義務の要件は、虚偽表現であることが「明白」であり、かつ、選挙の公正が「著しく」害されるおそれがあることが「明白」と厳格な要件となっていることから、恣意的な判断になるおそれが小さい。そして、また、法案13条は、削除命令によってSNS事業者が表現を削除した場合に当該表現の発信者に生じた損害の免責が規定されていることから、SNS事業者にとっては運営上の支障は小さい。

 さらに、反対利益は選挙の公正を確保することにあるところ、選挙運動の期間中及び選挙の当日に虚偽表現がされたとすれば、有権者にとってその期間中に対抗言論によって虚偽と理解されることは難しい。そのため、できるだけ早く、虚偽表現を人目に触れなくする必要があるから、行政処分の緊急性が高い。

 したがって、SNS事業者に対する行政手続法の適用除外を規定することも不合理とはいえないから、行政処分の相手方に行政手続法上の事前手続は保障されない。

3 よって、法案20条は合憲である。

 

 

令和2年司法試験憲法の解答例

こんにちは。

今回は、令和2年司法試験の憲法の解答例を記載しました。

 

第1 規制①の憲法適合性

1 規制①は、乗合バス事業者(議連で検討されている法律案の骨子(以下「法案」という。)2条1項)のうち、高速路線バス(法案2条3項)のみを運行する事業者の職業の自由(憲法22条1項)を侵害し違憲ではないか。

 「職業」の自由は、憲法22条1項によって保障されている。法案3条1項は、「生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみ」に高速路線バスの運行を許可するから、高速路線バスのみを運行する事業者は、高速路線バスの運行ができなくなる。したがって、職業の自由に対する制約が認められる。

2 職業は、個人の生計の維持とともに、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、人格的価値とも不可分の関連を有する。もっとも、職業は、社会的・経済的活動であり、社会的相互関連性が大きいから、公権力による規制の要請が強い。そして、規制の種類・制約・影響は様々であるから、職業に対する規制には立法の裁量が認められる。したがって、裁量の範囲内である限り規制は許される。

 これに対して、事業者は、法人であることが考えられるから、人格的価値は小さいとの反論があり得るが、法人の構成員の人格的価値の発展に資すると再反論できる。

3 法案3条1項は、許可制によって、高速路線バスのみを運行する事業者の高速路線バスの運行を禁止するから、狭義の職業選択の自由を制約する。

(1)これに対しては、法案4条は、生活路線バスの運行を許可する仕組みを設けているため、これによって、職業遂行の自由が制約されているにとどまるとの立場があり得る。

 この点、法案4条は、「既に当該地域での生活路線バスを運行している事業者の経営を害することがないと認められる場合」との要件を課している。Xによると、多くの利用者が見込まれる高収入の路線への参入はこの要件によって排除されることになる、生活路線バス用の車両の購入や、営業所の設置・維持、運転手の再教育に多くの費用が掛かることへの懸念に加え、そもそも既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業者の経営を脅かさずに算入できる地域があるのかという疑問が寄せられている。そうすると、法案4条の要件をみたし、生活路線バスを運行することは事実上困難といえるから、法案3条1項は、高速路線バスのみを運行する事業者にとって、高速路線バスの運行を断念させる効果を有する。したがって、職業遂行の自由を制約するにとどまると立場は採り得ない。

(2)また、法案3条2項によって、「貸切バス事業者」(法案2条2項)に転業すれば、受託することによって、高速路線バスの運行が可能となるから、職業遂行の自由を制約するにとどまるとの反論が成り立つ。

(3)したがって、法案3条1項は、高速路線バスのみを運行する事業者の職業遂行の自由を制約する。

4 生活路線バス事業の大半が赤字であり、Xの発言を踏まえると、法案3条1項の目的は、既存の生活路線バスを営む事業者の営業の保護にあるため、積極目的であるとも思われる。しかし、法案の究極目的は、移動手段の確保にあり(法案1条)、近年、路線の廃止や減便の結果、日常生活に極めて大きな支障をもたらすことや、免許返納が進まない一因となっている。そうすると、法案3条1項の目的は、赤字による廃業、減便等を防ぐことにより国民の移動手段を確保するという公共的な目的であるといえる。したがって、立法府の広範な裁量が認められる。

 そこで、規制①の合憲性は、緩やかに審査すべきであり、正当な目的のために、必要かつ合理的な手段といえるときは合憲となる。

5 現に、生活路線バスの廃止、減便が、高齢者や高校生等の移動手段を奪うこと、免許返納が進まない一因であることが指摘されていることから、移動手段の確保という目的が設定されている。そのため、正当な目的といえる。

 生活路線バスを営む事業者の保護としては、補助金を交付するなどの方法もあり得るが、規制によることも立法政策上の当否の問題といえるから、法案3条1項の必要性は認められる。

 法案3条1項は、高速路線バスのみを運行する事業者の生活路線バスへの新規参入を促すことによって、移動手段の確保を目指すものである。もっとも、3(1)で述べた通り、法案4条の要件が厳格であることから、高速路線バスのみを運行する事業者が生活路線バスへ新規参入することは期待できず、バス事業を続行するためには3条2項によるのが一般的となると考えられる。したがって、移動手段の確保に資するとはいえないから、法案3条1項の合理性は認められない。

6 よって、法案3条1項は違憲である。

第2 規制②の憲法適合性

1 法案5条1項は、特定区域(法案2条5項)の住民以外の者の移動の自由(憲法22条1項)を侵害し違憲ではないか。

(1)憲法22条1項は、「居住、移転」の自由を保障しているところ、その前提として、一時的な移動の自由が保障される。

(2)法案5条1項は、特定区域についての通行が禁止されることによって、住民以外の者の移動の自由を制約する。

2 もっとも、移動の自由は「公共の福祉」(憲法22条1項)による一定の制約に服する。

 移動の自由は、22条1項に規定されているが、経済的自由の側面だけではなく、人身の自由としての側面や、移動が個人の人格の発展に関わる精神的自由としての側面を有するから、立法府の裁量に委ねられるべき問題ではない。

 規制②は、法案5条2項によって、罰則をもって、特定区域の通行を禁止するものである。もっとも、法案5条1項は、特定区域の通行を全面的に規制するわけではなく、規制の対象や時間による限定されたものである。そのため、規制の程度は弱い。

 以上のことからすると、規制②の合憲性は、厳格な合理性の基準によって判断すべきである。

3 Xによると、歴史的な街並みが保存されている地区や住宅密集地では、道路の拡幅もできず、歩くのも危ないし緊急車両の通行もままならないということで、住民の不安も高まっているという。これを受けて立法される規制②は、特定区域の住民の身体への危険が目的である。たしかに、身体の安全が保護法益であるとすると、重要な目的であるが、渋滞によって身体への危険が生じることの因果関係が不明であるため、重要な目的といえるかが疑わしい。

 そうすると、混雑による不便の解消が目的であると考えられるが、不便の解消のために罰則を付すことは過剰な規制であり、必要性が認められない。

4 よって、規制②は違憲である。

刑法事例演習教材 第1問 ボンネット上の酔っ払い 解答例

今回は、刑法事例演習教材第1問ボンネット上の酔っ払いの解答例を記載しました。

 

 

 

第1 Aの顔面を手拳で殴打した行為について、暴行罪(208条)が成立するか。

1 「暴行」とは、不法な有形力の行使をいうところ、甲が顔面を殴打した行為は、Aの身体に対する不法な有形力の行使といえる。したがって、「暴行」にあたる。

2 もっとも、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

(1)「急迫不正の侵害」とは、法益侵害が現に存在しているかまたは間近に押し迫っていることをいうところ、本件では、Aは、甲の車の窓から手を入れてきて、甲の胸ぐらを掴もうとしたので、甲の身体に対する侵害行為が間近に押し迫っているといえる。

 したがって、「急迫不正の侵害」が認められる。

(2)「防衛するため」の行為は、防衛の意思が必要であり、その内容は、急迫不正の侵害を避けようとする単純な心理状態をいうところ、甲は、胸ぐらを掴もうとするAの手を払いのけて殴打しているから、「防衛するため」の行為といえる。

(3)「やむを得ずにした」とは、防衛行為としての必要性および相当性を有する行為をいう。

 本件では、胸ぐらを掴もうとしたのに対し、手拳で顔面を軽く一回殴ったのみであり、危険性は小さい。したがって、必要最小限の行為といえるから、「やむを得ずにした」行為といえる。

(4)よって、正当防衛(36条1項)が成立し、暴行罪は成立しない。

第2 Bに向けて車を進行させた行為について、Bに対する傷害罪(204条)が成立するか。

1 「傷害」とは、人の生理的機能を侵害することをいうところ、Bは、全治1週間の打撲傷を負っているので「傷害」にあたる。

2 もっとも、甲には、故意(38条1項本文)が認められないのではないか。

 故意とは、結果発生の認識・認容をいうところ、本件では、たしかに、道路にBの体を避けて車を進行するのに十分なだけの幅があり、また、仮にBの体に車が接触しそうになってもBが身を避けるだろうから、Bの体に車が接触することはないと考えている。

 しかし、暴行は、接触を要しないから、Bに向けて車を発進させる行為は、客観的に暴行にあたる。そして、甲は、このまま車を進行させるとBに衝突するかもしれないと一瞬思っている。そのため、甲は、Bに向けて車を発進させる行為を認識しているといえるから、暴行の故意は認められる。傷害罪は、暴行の結果的加重犯であるから、暴行の故意があれば足りる。

 したがって、故意が認められる。

3 もっとも、正当防衛(36条1項)が成立しないか。

(1)Bの車からAが降りてきて、棒切れのような物を手にして、「こいつや、こいつや」などと言いながら甲の車に近づいてきた。そして、BもAの後ろから近付いてきた。そのため、AおよびBは、甲に対して危害を加えかねない状況にあるから、甲の身体に対する危険が間近に押し迫っている。

 したがって、「急迫不正の侵害」が認められる。

(2)甲は、第1の行為を行っているから、自招侵害として正当防衛状況を欠くとも思われるが、第1の行為には正当防衛が成立する以上、自招侵害は問題とならない。

(3)甲は、このままでいるとAおよびBから暴行を加えられると考え、A車をボンネット上に乗せたまま自車を発進させようとしているから、「防衛するため」の行為といえる。

(4)甲は、道路にBの体を避けて車を進行するのに十分なだけの幅があり、また、仮にBの体に車が接触しそうになってもBが身を避けるだろうから、Bの体に車が接触することはないと考えている。そのため、Bの身体に対する侵害が小さい手段を採っているから、必要最低限の防衛行為といえる。したがって、「やむを得ずにした」行為といえる

(4)よって、正当防衛(36条1項)が成立し、傷害罪は成立しない。

第3 Aをボンネット上に乗せながら走行し、路上で急ブレーキをかけてAを振り落とした一連の行為について、Aに対する殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

1 「殺」す行為は、人が死亡する現実的危険のある行為をいうところ、甲は、時速約70キロメートルで国道上を疾走しつつ、急ブレーキを何度もかけたり蛇行運転をしながら焼約2.5キロメートルにわたって走行している。そのため、かなり速いスピードで危険な運転を長期間にわたって行っているといえるから、転落したり、後続車に惹かれるなど、死亡の危険性を大いに有する行為である。したがって、「殺」す行為にあたる。

2 Aは、以上のように、死亡する客観的に危険な行為を行っていることを認識しているから、殺意が認められる(38条1項本文)。

3 上記行為に正当防衛(36条1項)は成立するか。

(1)第2と同様に、「急迫不正の侵害」と「防衛するため」の要件はみたす。

(2)「やむを得ずにした」とは、防衛行為としての必要性および相当性を有する行為をいう。侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない。

 甲は、Aからの侵害行為に対して高速で急ブレーキ、蛇行を繰り返す運転は妥当ではなく、低速で近くの交番等に向かい、助けを求めることが可能であったであろうから、相当性は認められない。

 したがって、「やむを得ずにした」行為とはいえないから、正当防衛は成立しない。

4 よって、殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。

第4 甲の行為には殺人未遂罪が成立し、過剰防衛(36条2項)による任意的減免を受ける。

 

事例で考える会社法事例① 解答例

今回は、事例で考える会社法の事例①の解答例を記載しました。

 

 

第1 Aの責任

 Aは、乙社に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負うか。

 429条1項は、会社が経済社会において重要な地位を占め、会社の活動は取締役の職務執行に依存するものであるから、取締役の義務違反による損害から第三者を保護するための法定責任である。

 そこで、取締役の会社に対する職務懈怠についての悪意・重過失を主張・立証することによって、429条1項の損賠賠償責任が認められる。

1 設問(1)

 ア 取締役は、会社に対して善管注意義務(330条・民法644条)として、会社に損害を被らせないように業務執行を行う義務を負っている。

 Aは、乙社に代金を支払うことができると考え、本件取引に入った。そのため、Aの行為によって、乙社は直接損害を被ったといえる。本件取引の時点において、既に甲社は実質的に債務超過であったから、Aが本件取引に入った行為は、甲社に損害を被らせないとも思われる。

 もっとも、会社が債務超過またはそれに近い状態にあり、第三者に損害を及ぼしかねない状況下においては、会社債権者の損害拡大を阻止するため、取締役には会社の状況を把握し、再建可能性・倒産処理等を検討すべき義務を負う。

 α年5月25日の時点において、既に甲社は実質的債務超過であり、客観的に倒産寸前の状態にあり、同年8月中旬に満期が到来する手形につき2回目の不渡りを出すことが確実であった。そのため、Aは、再建可能性・倒産処理等を検討しないで本件取引に入ったことは、善管注意義務違反となる。

 Aの立場にある通常の経済人の判断力をもってすれば、同年8月末日に代金が支払えないどころか、事業が継続していないことも明らかであったから、Aには重大な過失が認められる。

 したがって、「職務を行うについて悪意または重大な過失」がある。

 イ Aの行為によって、乙社は、布地の代金500万円の支払を受けられない「損害」が生じている。

 ウ よって、Aは、乙社に対し、500万円の損害賠償責任を負う。

2 設問(2)

 ア 取締役は、会社に対して善管注意義務(330条・民法644条)として、会社に損害を被らせないように業務執行を行う義務を負っている。

 もっとも、企業経営はリスクを伴い会社を発展させるものであるから、経営判断の結果の責任を追及することによる企業経営の萎縮を避けるべきである。また、株主は、取締役に企業の経営を委任しているから、経営の萎縮は株主の期待に反する。

 そこで、行為当時の状況に照らして経営判断の決定過程(情報収集)・内容に著しく不合理であるときに限り、取締役の善管注意義務違反が認められる。

 α年春頃から徐々に経済情勢の暗転の兆しが見えており、Aと同様のデリバティブ取引をしていた投資家の大半は早期に手仕舞いをしていた。それにもかかわらず、Aは手仕舞いをするどころか、同年6月には損失を埋め合わせようと会社の運転資金を投入して投資額を増やしたため、ますます損失が膨らんだ。そのため、会社の運転資金をデリバティブ取引に投入したAの判断は、著しく不合理といえる。

 したがって、善管注意義務に違反するから、「職務を行うについて悪意又は重過失」がある。

 イ このことが原因となって、甲社の資金繰りが悪化し、同年8月中旬に手形の2回目の不渡りを出した。その結果、乙社は、布地の代金500万円の支払を受けられない間接損害が生じている。

 ウ よって、Aは、乙社に対し、500万円の損害賠償責任を負う。

3 設問(3)

 ア Aの「悪意又は重大な過失」が認められるかは、設問(2)と同様の判断枠組みで判断する。

 財務部長であるCは、甲社の財務状態に鑑み、経営の見直しをすべきであると建議した。Cは、①から④の選択肢を提示しているが、いずれかの選択肢が採用された場合においても、乙社と本件取引に入ることはなかった。しかし、Aは、Cの提案を検討することはせず、⑤新製品の投入という事業拡張により、危機を乗り越えようと考え、本件取引により、新製品の素材となる布地を乙社から仕入れることにした。

 Aは、Cの提案を検討しなかった点で、判断過程が著しく不合理であるから、善管注意義務に違反する。

 したがって、Aは、「職務を行うについて悪意又は重過失」がある。

 イ 甲社は、新商品を発売してみたものの、はっきりとした経営見通しもなかったことから、甲社の資金繰りはますます悪化し、同年8月中旬には手形の2回目の不渡りを出した。その結果、乙社は、布地の代金500万円の支払を受けられない間接損害が生じている。

 ウ よって、Aは、乙社に対し、500万円の損害賠償責任を負う。

第2 Bの責任

1 Bは、乙社に対し、429条1項に基づく損害賠償責任を負うか。

2 Bは、甲社のワンマン社長であるAから取締役としての業務執行を依頼されたにすぎなかった。そのため、「職務を行うについて悪意又は重過失」はないのではないか。

 名目取締役であっても、適法に選任手続を経ているし、取締役の職務を果たせないならば辞任すべきである。そのため、名目取締役は取締役としての義務を負う。

 本件で、Bは、株主総会の選任手続を経ているから、取締役としての義務を負う余地がある。

 取締役会設置会社の取締役は、取締役会が取締役の職務の執行を監督する地位にある(362条2項2号)から、取締役会の構成員として、取締役会を通じて他の取締役や従業員を監督する義務を負う。

 Bは、取締役としての業務を一切行っていない。そして、2回目の手形の不渡りが発生するまで、本件取引のことも全く知らなかった。そのため、普段から果たすべき職責を果たしていないといえるから、監視義務が認められる。

 したがって、「職務を行うについて悪意又は重過失」が認められる。

3 もっとも、取締役としての業務は一切行っておらず、報酬も受け取っていない。また、Aは甲社のワンマン社長であった。そのため、Bが取締役会に報告したとしても、手形の不渡りの発生を防止できたとは思えない。

 したがって、Bの行為と乙社の「損害」との間の因果関係が認められない。

4 よって、Bは、乙社に対し損害賠償責任を負わない。

 

事例から行政法を考える事例① 解答例

『事例から行政法を考える』

事例①の解答例を記載しました。

 

第1 設問1

1 Xは、実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)を提起することが考えられる。

 確認の訴えの対象は、論理的には無限定であるから、有効かつ適切でない訴えがされる可能性が常にある。そのため、原則として訴えの利益がないことが推定される。そこで、確認の利益は、①対象選択の適切性、②方法選択の適切性、③即時確定の必要性を考慮して有効かつ適切な訴えのみ認められる。

(1)Xは、本件条例4条に基づき井戸を設置できる地位にあることの確認をする。

 Aは、本件条例附則2項により、Y村村長に井戸使用届出を行い、3項により本件条例4条1項の許可を受けたものとみなされる。Xは、Aから井戸を含む土地を買っているから、本件条例4条の許可を受けた者の地位を承継する(本件条例8条1項)。

 したがって、Xは、4条1項に基づき井戸を設置できる地位にあることを確認すれば、届出の適法性を争うことができる。そのため、本件条例19条2項1号、20条により罰則が科されることを回避するための対象が適切といえる。

(2)本件条例8条3項に基づく届出の性質は、Y村行手条例にいう「届出」(2条7号)であり、当該届出がY村村長に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたことになる(Y村行手条例35条)。そのため、本件条例8条3項の届出の適法性を抗告訴訟で争うことはできない。

 Xは、罰則が科されることを防ぐためには、刑事訴追を待つことが考えられるが、その前に確認訴訟による救済をすべきである。したがって、方法選択は適切である。

(3)Xは、本件条例8条3項に基づく「承継」の届出が適法になされたかが明らかでなく、地下水の利用を開始することにより刑事罰を受ける不安がある。したがって、即時確定の必要性が認められる。

2 よって、訴えの利益が認められるから、Xは、実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)を提起して争うことが適切である。

第2 設問2

1 本件処分は、本件条例9条に基づく処分であり、本件条例6条が許可基準となっている。

 本件条例6条各号の許可基準は、抽象的な文言であり、本件条例の目的が地下水資源の保護にあるから、許可基準に該当するかどうかは、地下水資源の枯渇を防ぐという観点から、村長に技術的な視点からの判断が求めれられる。また、本件条例6条2項が附款を定めることができるとしているから、許可基準に該当するかどうかに村長の裁量が認められることが前提とされている。したがって、Y村村長には、要件裁量が認められる。

 そこで、重要な事実の基礎を欠くことになる場合、又は、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことになる場合に限り、裁量権の逸脱濫用として違法となる(行訴法30条)。

2 Y村では、行手条例上の審査基準(Y村行手条例2条8号ロ)にあたる審査基準が定められている。これは講学上の裁量基準である。

3 Y村村長は、既設井戸から180mしかないことが、「既設井戸に支障を及ぼさないこと」(本件条例6条1項2号)の要件をみたさないと主張している。

(1)Y村では、「既設井戸に支障を及ぼさないこと」の審査基準として「既設の井戸から200m以上離れていること」との基準を定めており、Xの井戸は、Bの井戸から180mしかないことは審査基準に反する。

(2)本件条例の趣旨は、Y村の地下水資源の保護にあるところ、距離制限を設けることにより、地下水資源の保護に資することが考えられるから、審査基準は合理的である。

(3)もっとも、地下水の枯渇により円滑な利用が可能であるときにまで審査基準を機械的に適用することは、許可申請者の財産権を制約し、許されない。

 本件条例の目的からすると、「既設井戸に支障」とは、地下水の枯渇による円滑な利用を妨げられることと解すべきである。

 本件では、これまで、Aが利用していても特に周辺の井戸には影響がなかったところ、Xの工場が利用する地下水の量はAが利用していた水量とはあまり違いはない。そうすると、Xが、地下水を利用しても、特に周辺の井戸には影響がないと考えられる。

(4)したがって、審査基準を機械的に適用し「既設の井戸に影響を及ぼさないこと」にあたらないと判断したことは考慮不尽であり、裁量を逸脱濫用し、違法である。

4 Y村村長は、自治会の同意書がないことが、本件条例6条1項5号に反すると主張している。

(1)Y村では、「村長が必要と定める事項」の審査基準として、「井戸の所在する地域の自治会等が同意していること」との基準を定めている。本件では、自治会はXからの同意要請を拒否したから、審査基準に反する。

(2)もっとも、自治会等の合意によっても本件条例の目的である、地下水資源の保護に資することはない。そのため、自治体に絶対的拒否権を与えることは、井戸設置者の財産権を制約し、不合理である。したがって、不合理な裁量基準に従った処分は違法である。

(3)仮に、審査基準が合理的であるとしても、自治体がXの同意要請を拒否したのは、Xの井戸から180m離れているBも、地下水をペットボトルに詰めて販売することを計画していることから、同様の事業を行うXの参入を阻止するという目的による。本件条例の趣旨が、地下水資源の保護にあるところ、競業業者の参入を拒否することにより同意を拒否することは、法の趣旨に反する。

(4)したがって、このような理由で「自治会等の同意」を得られなかったとして、本件条例6条1項5号に反すると判断することは、他事考慮であり、裁量の逸脱濫用し違法である。

5 よって、Y村村長が本件処分をしたことは、本件条例4条に反し違法である。

【法学部生・司法試験受験生向け】平等(憲法14条1項)答案の書き方

私は、2022年12月に弁護士登録をした新人弁護士です。

 

憲法の問題には、「判例を踏まえて書きなさい」という出題が多いように思います。

しかし、判例を読んだけれども、どう書けば判例を踏まえた答案になっているのか分からないと悩んでいる人が多いのではないでしょうか。

私は、個別の権利ごとに検討事項を整理して記憶しておけば、検討事項を答案に記載するだけで、判例を踏まえた答案が完成するのではないかと考えました。

司法試験のための憲法の勉強は、個別の権利ごとに検討事項を整理し、判例の評価をまとめることを中心に行い、100頁弱のノートを作成しました。

ブログでは、上記ノートの内容を修正し、公開をしていこうと考えています。

今回は平等の検討事項を記載しましたので、みなさんの整理に役立てれば幸いです。

 

 

1 検討対象の設定

 平等憲法14条1項に違反するかを検討するためには、まず、誰と誰が区別されているのかを特定する必要があります。具体的には、以下のような区別をすることが考えられます。

 ・親を殺した人とそれ以外の人を殺した人

 ・55歳以上の人とそれ未満の人

 ・嫡出でない子と嫡出である子

 

2 判断枠組み

 待命処分事件(最大判昭和39・5・27民集18巻4号676頁)は、「右各法条(憲法14条1項)は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条(憲法14条1項)の否定するところではない。」と述べており、合理的な差別は憲法に違反しないと整理することができます。

 したがって、「区別が事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づかないときに違憲である」との判断枠組みで検討すればよいと整理できます。

 

(1)「事柄の性質」

 待命処分事件では、「事柄の性質」に即応して検討することを求めています。「事柄の性質」にあたるのは、領域・分野、不利益や負担の質・大きさ、区別事由であると考えられ、これらの事実を踏まえて、合理性の検討を行っていきます。

 ア 領域・分野

 租税(84条)、選挙(47条)、国籍(10条)、家族法(24条2項)、生存権(25条)などの領域・分野の立法においては、政策的な判断や専門技術的な判断を必要とするから、一般的には、裁判所は立法裁量を尊重すべきであり、合理性の検討密度は緩やかになります。

 以下の判例は、かような理由で検討密度を緩やかにしていると読めます。

 答案上でも、以上の領域・分野に限らず、立法裁量を尊重すべき場面では、検討密度を緩やかにすべき理由の一つとなり得ます。

租税領域

サラリーマン税金訴訟(最大判昭和60・3・27民集39巻2号247頁)

憲法は、「国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。」

「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」。

 

生存権領域

堀木訴訟

 「憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう『健康で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である。」

 

国籍領域

国籍法違憲判決

憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。」

 

選挙領域

重複立候補制度(最大判平成11・11・10民集53巻8号1577頁)

「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねている」。

 

家族法領域

非嫡出子相続分規定違憲判決

 「相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられている」。

 

再婚禁止期間違憲判決(最大判平成27・12・16民集69巻8号2427頁)

「婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものである。したがって,その内容の詳細については,憲法が一義的に定めるのではなく,法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。」

婚姻は,これにより,配偶者の相続権(民法890条)や夫婦間の子が嫡出子となること(同法772条1項等)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか,近年家族等に関する国民の意識の多様化が指摘されつつも,国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられることをも併せ考慮すると,上記のような婚姻をするについての自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値するものと解することができる。

 

イ 不利益や負担の質・大きさ、区別事由

 以下の、国籍法違憲判決は、区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるときは、裁判所は別異取扱いの合理性を慎重に検討すべきであることを示したと整理することができます。その後の非嫡出子相続分規定違憲判決では、父母の婚姻が子にとって自ら選択・修正できない事項であることから合理性の判断を慎重に行うべきと考えているように読めます。

 答案上でも、区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるときには、合理性の検討密度を厳しくすべきと思います。

国籍法違憲判決

日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。」

 

非嫡出子相続分規定違憲判決

 「家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」
 以上を総合すれば,「嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

 

(2)「合理的根拠」

 最高裁は、多くの事案で、①ある人たちとある人たちを区別する目的に合理性があると認められ、②この目的を達成する手段に合理性があると認められる場合に、合理的な区別として是認しています。

 「事柄の性質」によって、合理性の検討密度を設定した上で、合理性を検討すべきです。

 目的に合理性が認められない場合は、区別が違憲である、手段に合理性が認められない場合は、区別自体は合理的であるが、区別の程度が違憲であるという整理になります。

 

検討事項まとめ

1 誰と誰が区別されているかを特定する。

2 区別が合理的であるかを検討する。

(1)合理性の検討密度

 ア 立法裁量が認められるべき領域・分野か

 イ 区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるか

(2)検討密度に応じた目的手段に合理性があるか

 

 今回は、以上です。ご拝読いただきましてありがとうございました。