弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

事例から行政法を考える事例① 解答例

『事例から行政法を考える』

事例①の解答例を記載しました。

 

第1 設問1

1 Xは、実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)を提起することが考えられる。

 確認の訴えの対象は、論理的には無限定であるから、有効かつ適切でない訴えがされる可能性が常にある。そのため、原則として訴えの利益がないことが推定される。そこで、確認の利益は、①対象選択の適切性、②方法選択の適切性、③即時確定の必要性を考慮して有効かつ適切な訴えのみ認められる。

(1)Xは、本件条例4条に基づき井戸を設置できる地位にあることの確認をする。

 Aは、本件条例附則2項により、Y村村長に井戸使用届出を行い、3項により本件条例4条1項の許可を受けたものとみなされる。Xは、Aから井戸を含む土地を買っているから、本件条例4条の許可を受けた者の地位を承継する(本件条例8条1項)。

 したがって、Xは、4条1項に基づき井戸を設置できる地位にあることを確認すれば、届出の適法性を争うことができる。そのため、本件条例19条2項1号、20条により罰則が科されることを回避するための対象が適切といえる。

(2)本件条例8条3項に基づく届出の性質は、Y村行手条例にいう「届出」(2条7号)であり、当該届出がY村村長に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたことになる(Y村行手条例35条)。そのため、本件条例8条3項の届出の適法性を抗告訴訟で争うことはできない。

 Xは、罰則が科されることを防ぐためには、刑事訴追を待つことが考えられるが、その前に確認訴訟による救済をすべきである。したがって、方法選択は適切である。

(3)Xは、本件条例8条3項に基づく「承継」の届出が適法になされたかが明らかでなく、地下水の利用を開始することにより刑事罰を受ける不安がある。したがって、即時確定の必要性が認められる。

2 よって、訴えの利益が認められるから、Xは、実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)を提起して争うことが適切である。

第2 設問2

1 本件処分は、本件条例9条に基づく処分であり、本件条例6条が許可基準となっている。

 本件条例6条各号の許可基準は、抽象的な文言であり、本件条例の目的が地下水資源の保護にあるから、許可基準に該当するかどうかは、地下水資源の枯渇を防ぐという観点から、村長に技術的な視点からの判断が求めれられる。また、本件条例6条2項が附款を定めることができるとしているから、許可基準に該当するかどうかに村長の裁量が認められることが前提とされている。したがって、Y村村長には、要件裁量が認められる。

 そこで、重要な事実の基礎を欠くことになる場合、又は、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことになる場合に限り、裁量権の逸脱濫用として違法となる(行訴法30条)。

2 Y村では、行手条例上の審査基準(Y村行手条例2条8号ロ)にあたる審査基準が定められている。これは講学上の裁量基準である。

3 Y村村長は、既設井戸から180mしかないことが、「既設井戸に支障を及ぼさないこと」(本件条例6条1項2号)の要件をみたさないと主張している。

(1)Y村では、「既設井戸に支障を及ぼさないこと」の審査基準として「既設の井戸から200m以上離れていること」との基準を定めており、Xの井戸は、Bの井戸から180mしかないことは審査基準に反する。

(2)本件条例の趣旨は、Y村の地下水資源の保護にあるところ、距離制限を設けることにより、地下水資源の保護に資することが考えられるから、審査基準は合理的である。

(3)もっとも、地下水の枯渇により円滑な利用が可能であるときにまで審査基準を機械的に適用することは、許可申請者の財産権を制約し、許されない。

 本件条例の目的からすると、「既設井戸に支障」とは、地下水の枯渇による円滑な利用を妨げられることと解すべきである。

 本件では、これまで、Aが利用していても特に周辺の井戸には影響がなかったところ、Xの工場が利用する地下水の量はAが利用していた水量とはあまり違いはない。そうすると、Xが、地下水を利用しても、特に周辺の井戸には影響がないと考えられる。

(4)したがって、審査基準を機械的に適用し「既設の井戸に影響を及ぼさないこと」にあたらないと判断したことは考慮不尽であり、裁量を逸脱濫用し、違法である。

4 Y村村長は、自治会の同意書がないことが、本件条例6条1項5号に反すると主張している。

(1)Y村では、「村長が必要と定める事項」の審査基準として、「井戸の所在する地域の自治会等が同意していること」との基準を定めている。本件では、自治会はXからの同意要請を拒否したから、審査基準に反する。

(2)もっとも、自治会等の合意によっても本件条例の目的である、地下水資源の保護に資することはない。そのため、自治体に絶対的拒否権を与えることは、井戸設置者の財産権を制約し、不合理である。したがって、不合理な裁量基準に従った処分は違法である。

(3)仮に、審査基準が合理的であるとしても、自治体がXの同意要請を拒否したのは、Xの井戸から180m離れているBも、地下水をペットボトルに詰めて販売することを計画していることから、同様の事業を行うXの参入を阻止するという目的による。本件条例の趣旨が、地下水資源の保護にあるところ、競業業者の参入を拒否することにより同意を拒否することは、法の趣旨に反する。

(4)したがって、このような理由で「自治会等の同意」を得られなかったとして、本件条例6条1項5号に反すると判断することは、他事考慮であり、裁量の逸脱濫用し違法である。

5 よって、Y村村長が本件処分をしたことは、本件条例4条に反し違法である。