弁護士くろさんの雑記ブログ

受験時代に作成した演習書の解答例と司法試験の憲法の答案例をアップします。

【法学部生・司法試験受験生向け】平等(憲法14条1項)答案の書き方

私は、2022年12月に弁護士登録をした新人弁護士です。

 

憲法の問題には、「判例を踏まえて書きなさい」という出題が多いように思います。

しかし、判例を読んだけれども、どう書けば判例を踏まえた答案になっているのか分からないと悩んでいる人が多いのではないでしょうか。

私は、個別の権利ごとに検討事項を整理して記憶しておけば、検討事項を答案に記載するだけで、判例を踏まえた答案が完成するのではないかと考えました。

司法試験のための憲法の勉強は、個別の権利ごとに検討事項を整理し、判例の評価をまとめることを中心に行い、100頁弱のノートを作成しました。

ブログでは、上記ノートの内容を修正し、公開をしていこうと考えています。

今回は平等の検討事項を記載しましたので、みなさんの整理に役立てれば幸いです。

 

 

1 検討対象の設定

 平等憲法14条1項に違反するかを検討するためには、まず、誰と誰が区別されているのかを特定する必要があります。具体的には、以下のような区別をすることが考えられます。

 ・親を殺した人とそれ以外の人を殺した人

 ・55歳以上の人とそれ未満の人

 ・嫡出でない子と嫡出である子

 

2 判断枠組み

 待命処分事件(最大判昭和39・5・27民集18巻4号676頁)は、「右各法条(憲法14条1項)は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条(憲法14条1項)の否定するところではない。」と述べており、合理的な差別は憲法に違反しないと整理することができます。

 したがって、「区別が事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づかないときに違憲である」との判断枠組みで検討すればよいと整理できます。

 

(1)「事柄の性質」

 待命処分事件では、「事柄の性質」に即応して検討することを求めています。「事柄の性質」にあたるのは、領域・分野、不利益や負担の質・大きさ、区別事由であると考えられ、これらの事実を踏まえて、合理性の検討を行っていきます。

 ア 領域・分野

 租税(84条)、選挙(47条)、国籍(10条)、家族法(24条2項)、生存権(25条)などの領域・分野の立法においては、政策的な判断や専門技術的な判断を必要とするから、一般的には、裁判所は立法裁量を尊重すべきであり、合理性の検討密度は緩やかになります。

 以下の判例は、かような理由で検討密度を緩やかにしていると読めます。

 答案上でも、以上の領域・分野に限らず、立法裁量を尊重すべき場面では、検討密度を緩やかにすべき理由の一つとなり得ます。

租税領域

サラリーマン税金訴訟(最大判昭和60・3・27民集39巻2号247頁)

憲法は、「国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(84条)。」

「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」。

 

生存権領域

堀木訴訟

 「憲法25条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。しかも、右規定にいう『健康で文化的な最低限度の生活』なるものは、きわめて抽象的・相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに、右規定を現実の立法として具体化するに当たっては、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがつて、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である。」

 

国籍領域

国籍法違憲判決

憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。」

 

選挙領域

重複立候補制度(最大判平成11・11・10民集53巻8号1577頁)

「代表民主制の下における選挙制度は、選挙された代表者を通じて、国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国において、その国の実情に即して具体的に決定されるべきものであり、そこに論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。我が憲法もまた、右の理由から、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量にゆだねている」。

 

家族法領域

非嫡出子相続分規定違憲判決

 「相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられている」。

 

再婚禁止期間違憲判決(最大判平成27・12・16民集69巻8号2427頁)

「婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものである。したがって,その内容の詳細については,憲法が一義的に定めるのではなく,法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。」

婚姻は,これにより,配偶者の相続権(民法890条)や夫婦間の子が嫡出子となること(同法772条1項等)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか,近年家族等に関する国民の意識の多様化が指摘されつつも,国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられることをも併せ考慮すると,上記のような婚姻をするについての自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値するものと解することができる。

 

イ 不利益や負担の質・大きさ、区別事由

 以下の、国籍法違憲判決は、区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるときは、裁判所は別異取扱いの合理性を慎重に検討すべきであることを示したと整理することができます。その後の非嫡出子相続分規定違憲判決では、父母の婚姻が子にとって自ら選択・修正できない事項であることから合理性の判断を慎重に行うべきと考えているように読めます。

 答案上でも、区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるときには、合理性の検討密度を厳しくすべきと思います。

国籍法違憲判決

日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。」

 

非嫡出子相続分規定違憲判決

 「家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」
 以上を総合すれば,「嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

 

(2)「合理的根拠」

 最高裁は、多くの事案で、①ある人たちとある人たちを区別する目的に合理性があると認められ、②この目的を達成する手段に合理性があると認められる場合に、合理的な区別として是認しています。

 「事柄の性質」によって、合理性の検討密度を設定した上で、合理性を検討すべきです。

 目的に合理性が認められない場合は、区別が違憲である、手段に合理性が認められない場合は、区別自体は合理的であるが、区別の程度が違憲であるという整理になります。

 

検討事項まとめ

1 誰と誰が区別されているかを特定する。

2 区別が合理的であるかを検討する。

(1)合理性の検討密度

 ア 立法裁量が認められるべき領域・分野か

 イ 区別が重要な法的地位に不利益を与え、自らの意思や努力で変えることができない区別事由であるか

(2)検討密度に応じた目的手段に合理性があるか

 

 今回は、以上です。ご拝読いただきましてありがとうございました。